「一瞬の判断」をするために大切な7つのこととは? 宇宙飛行士・若田光一が初めて明かす仕事術
公開日:2016/10/21
宇宙飛行士になれる人は世界でもほんのひと握りのスーパーエリートだけと思っている人も多いだろう。しかし、日本人最多となる4度の宇宙飛行を果たした若田光一氏は、宇宙飛行士を目指す候補者の中では特にエリートというわけではなかった。それでも、彼は知力、体力、精神力のすべてを兼ね備えた宇宙飛行士となり、日本人初のISSコマンダーにも選ばれた。彼がJAXAやNASAの訓練の中で身に付けたのはどのようなスキルだったのだろうか? そして、そのスキルをどのように現場で活かしてきたのだろうか? 若田光一氏の著書『一瞬で判断する力 私が宇宙飛行士として磨いた7つのスキル』(若田光一/日本実業出版社)を取り上げる。
組織として起こり得ることは地上も宇宙も同じ
若田光一氏がISSのコマンダーとして宇宙に向かったのは2013年11月7日。彼にとってそれは4度目の宇宙行きで、ISSの長期滞在も2度目のことだった。特別な環境下で特殊な仕事を任された若田氏だが、彼はISS運用ブランチのチーフ時代からコマンダーとなった当時までの自分の立場を「組織の中で上下から板挟みにあう中間管理職」と表現している。ISSで作業をするクルーの中ではトップでも、NASAという巨大な組織の中では上にも下にも気を配らなければならないからだ。そして、宇宙でも地上でも組織の中で起こり得るトラブルに大きな違いはないと語っている。ただし、極限までストレスが高まる宇宙では、思いもよらないことが起こるため、一瞬で正しい判断をする力が必要になる点が少し違っているだけだ。だから、自分が宇宙飛行士の訓練時に身に付けたことや、宇宙で活動する中で感じたことは、組織で働く人なら誰にでも必ず役に立つはずだという。
訓練で身に付け宇宙飛行士として磨いてきたスキルは7つ
若田氏は、この本の中で、自分が宇宙飛行士の訓練を通して身に付け、宇宙で活動する中で磨いたスキルを7つに分類している。そして、その7つが一瞬の判断が必要な宇宙で活動するための力になっているとしている。そのスキルとは次の7つだ。
1、想像する
先を読み、最悪の状況を想定して動くこと、違和感を大事にしながら、不確定要素はなるべく減らしておくことなどをいう。
2、学ぶ
先人の言葉や失敗から学び、先入観を持たずに行動することをいう。
3、決める
優先順位を設けて、柔軟な軌道修正をしながら、失敗をせずに済む行動パターンを作り出すことをいう。
4、進む
経験を積み重ねながら先へ進んでいくことをいうが、その中でトラブルを避けたり、ストレスに対処したりする能力を身に付けていくことも含めている。
5、立ち向かう
プレッシャーや挫折との向き合い方をいう。どうやって自分を評価してもらうかといったことも含めている。
6、つながる
周りとのコミュニケーションの取り方を指している。組織の中では周りとどのように接し、協力していったらよいかということが語られている。
7、率いる
チームのトップに立つ人のあり方をいう。自分の理想のリーダー像に近づくよう努めたかと共に、チームのあり方が語られている。
このように分類の中身を見ると、いずれも宇宙という特殊環境でのみ必要になるスキルではないことがわかる。つまり、起こり得るトラブルだけでなく、仕事をする上で必要になるスキルも、宇宙だから、地上だからといった違いはないということだ。
若田氏が伝えたいことは太字で書かれている
この本は、よくありがちな有名人の成功談をただ並べただけの本とは違う。ISSのコマンダーとなって、どのような点に苦労し、どうやって乗り越えてきたかという点が中心に紹介されている。例えば、生命を脅かすような緊急事態が起こり得る宇宙空間では、日ごろからの小さな危機管理が必要で、メンタルの備えが重要になるということや、ISSという閉鎖空間で溜まったストレスを解消するためにはどのようなことをしたらよいかといったことが詳しく語られているのだ。そして、若田氏が伝えたいと思っている部分は、ところどころ太字で強調されている。どの部分も一般人の仕事や生活に置き換えて読めるうえに、ポイントがはっきりしているから理解しやすく、参考にもしやすい。後半部分ではマネジメントやリーダーシップのあり方についても語られているため、組織で働いている人はもちろん、人間関係に悩みを抱えている人にもぜひおすすめしたい1冊だ。
文=大石みずき