老人ホームか同居かそれとも? あなたは年老いた親をどうする? 「呼び寄せ高齢者」12人のインタビューでわかった成功する「老後暮らし」

社会

公開日:2016/10/27

『呼び寄せ高齢者 孤立から共生へ』(伊藤シヅ子/風媒社)

 日本は世界一の超高齢社会となってしまった。私が通っていた大学の教授が言うには、あまりに速いスピードで世界一の高齢社会になったので、日本の先行きを世界中が注目しているらしい。日本は世界の「モルモット」だそうだ。少し前から様々な高齢化社会の問題が取り上げられているが、近々「呼び寄せ」についても多くのメディアで取り上げられるのではないかと私はにらんでいる。いや、もう取り上げられているのかもしれない。団塊の世代がとうとう65歳以上の高齢者の仲間入りを果たし、彼らがいよいよ年老いたとき、誰が面倒を見るのだろう。やはり子どもたちが面倒を見るのだろうか。『呼び寄せ高齢者 孤立から共生へ』(伊藤シヅ子/風媒社)は、呼び寄せ問題について深く切り込んでいる。

 本書は、著者である伊藤シヅ子氏が実際に呼び寄せられた高齢者にインタビューし、高齢者たちが呼び寄せられた背景や本音をありのままに紹介している。インタビューから見えてきた呼び寄せの全体像をもとに、伊藤氏の考察と結論も導き出しているので、「実家の親が年老いて、心配だから呼び寄せようか考えている」という読者は、ぜひ本書を参考にしてほしい。

 第1章では、日本の超高齢社会の現状や呼び寄せられる背景を紹介している。しかし、今回はばっさりと省略したい。インターネットで調べたら出てくるのも多いし、呼び寄せに悩む当事者としては、背景などどうでもいいはずだ。

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 第2章では、伊藤氏が12人の呼び寄せ高齢者にインタビューした内容が要約して載せられている。こちらもキリがないので省略するが、12人分の人生がぎゅっとつまっていた。12人にはそれぞれの人生があり、生まれた場所、それからの人生、楽しかった頃や辛かった頃の感情、今を想う気持ちなど、赤裸々に語ってくれている。全て読み通して、みんな人生で必ず苦労しているようだ。呼び寄せられた経緯について語る件になると、子どもに感謝を述べたり、呼び寄せられた後悔を述べたり、なかには恨みをぽつりとこぼしている高齢者もいる。12人全員が呼び寄せに成功しているわけではない。かなり生々しいインタビューに、私は親の顔が頭に浮かんだ。読者は親を大事にしているだろうか。不仲や過去の恨みで疎遠になっている家庭は、とやかく言うまい。しかし、単に忘れているだけなら、たまには思い出してあげてほしい。

 第3章以降は、伊藤氏がインタビューを通して導き出した考察や結論を述べている。呼び寄せられた高齢者がその土地になじんだ生活ができるかどうかは、高齢者本人の「生活に適応する意志があるかどうか」が大きいという。「子どもと一緒に暮らしたい」という高齢者の意志が強ければ、初めて踏み入れる土地でも「新しい土地に慣れないと」という思いで、毎日あちこち歩き回るだろう。積極的に地域のイベントや様々な場所に顔を出すだろう。しかし、最後まで悩んで消極的に呼び寄せられた高齢者は、引きこもりがちになり、場合によっては子どもと不仲になる場合もあるという。やはり人間たるもの、やる気が大きいのだろうか。

 また、呼び寄せに満足している高齢者には、ある共通点があった。過去に転居の経験が何度かあるという。呼び寄せとは、転居のことでもあるので、経験の有無が大きいのだろう。さらに、子どもと同居していないのだ。これは驚きだ。子どもの家から歩いて3~15分程度の近所に住んでいるそうだ(老人ホームを含む)。「子どもの生活の邪魔をしたくない」「過去に長男と同居して失敗して、次は次女の近所に住むことにした」などの声があり、「スープの冷めない距離」を保つことが成功の秘訣のようだ。

 本書は、ぜひ30代以降の読者に読んでほしい1冊だ。紹介できなかった内容があることはもちろん、いずれ弱る親を今のうちに考えておいた方がいい、あとで後悔するなら今から考えておくべきだ。本書を読んで、私は強くそう思った。読んだ後、本書を親に渡すのもいいだろう。呼び寄せは子どもだけ、もしくは親だけで考えたら絶対に失敗する。本書をいい機会ととらえてほしい。

文=いのうえゆきひろ