出産割合は35歳で5人に1人…子どもがいないことを悲観しない。「不妊治療」後の幸せの見つけ方とは?
公開日:2016/10/28
子どもがほしいのに妊娠しない。思い切って不妊治療をはじめたのになぜかうまくいかない。でも高い治療費を払い続けてきた不妊治療をあきらめるわけにはいかない。子どもがいない人生なんて考えられない……。
そんな悩みと先の見えない不安を抱えている女性は多いのではないだろうか。
2014年のART(生殖補助医療)の患者数は約46万人で、同年に生まれた体外受精児は4.7万人。出産年齢で“高齢”とされる世代別の出産割合は、35歳で5人に1人、40歳で10人に1人、45歳になると100人に1人と不妊治療の現実はとてもシビアだ。
では不妊治療をあきらめた人たちはどんなタイミングで決断し、結果をどのように受けとめ、どんな生活を送っているのだろうか?
不妊治療経験者が情報を共有できる場が少ないなか、16人の“不妊治療のその後の物語”と産婦人科医やカウンセラーのインタビューを収めた『不妊治療のやめどき』(WAVE出版)という本が、発売から半年以上経った今も注目を集めている。
著者の松本亜樹子さんも不妊治療経験者で、その体験談を赤裸々に綴っている。
子どもを望んでいる女性が妊娠、出産できないという現実は、そう簡単に受けとめられるものではない。松本さんも不妊治療中は人の出産をうらやんで自己嫌悪に陥り、「妊娠したい」ではなく「妊娠しなきゃ」という強迫観念に駆られて精神的に不安定になっていった。そこから抜け出した彼女のアドバイスは、当事者でなければわからない苦しみに寄り添う具体的なものばかりだ。
たとえば不妊治療の結果(ゴール)は「妊娠する」ことだけではなく「妊娠しなかった」こともひとつの結果を得ることだと考える。妊娠できない自分は決して不合格でもダメな人間でもないから頑張っている自分を認めてあげる。「諦める」という言葉は仏教用語の「明らめる」で「明らかにして見極める」という意味があり、新しい人生に進むためのはじまりになる……。
松本さん自身は子どもをあきらめた後、不妊体験者を支援する“妊活コーチ”として活動をはじめNPO法人Fineを設立。孤独になりがちな不妊治療患者の交流の場を全国展開して国政にも働きかけるなど、新しい人生で大きな花を咲かせている。
不妊治療経験のある16人の女性たちもそれぞれの輝きを放っている。仕事と不妊治療を両立しながら職場のトイレで涙したこともあった女性は、44歳のとき7回目の体外受精で断念。その後に行政書士の資格をとり落語と着物ライフを楽しんでいる。体外受精で流産を2回、妊娠24週で死産も経験した女性は、乳児院のボランティアや児童養護施設の子どもたちの支援をしながら養子を検討中だ。不妊治療期間は「人生の冬休み」だったという女性は、キャリアカウンセラーとして活動をはじめた。2年間だけ不妊治療をした女性は里親になり里子を特別養子縁組して育てている。34歳と早い段階で不妊治療に区切りをつけた助産師の女性も、長男と長女をそれぞれ特別養子縁組で迎えて忙しいながらも充実した日々を送っている。
本書に収録されている産婦人科医はこう語る。
がんを患って「あなたの5年生存率は80%です」と医師に言われると多くの人は残りの20%に入ってしまうと心配する。しかし体外受精の成功率が20%と聞くと80%は妊娠できないのに「私は妊娠できる」と考える女性が多いと。
その一方で、Webメディア「こそだてハック」の調査によれば、不妊治療経験者の2人に1人がやめようと思った経験があり、その理由の1位が「精神的に不安定になったから」(60.4%)という結果も出ている。
不妊治療のやめどきに正解はない。しかしそのシビアな現実に打ちのめされる前に、そして不妊治療を「後悔するもの」ではなく「自分の愛しい人生の一部」にするためにもこの本を参考にしてほしい。松本さんのそんなメッセージがひとりでも多くの孤独な当事者に届くことを願う。
文=樺山美夏