山口組の顧問弁護士を40年務めた人物による手記独占出版!構成員になる人の3つのパターンとは?

社会

更新日:2016/11/28

『山口組 顧問弁護士』(山之内幸夫/KADOKAWA)

 2015年11月下旬、ある弁護士の有罪確定にともなう弁護士資格のはく奪が大きなニュースになった。その弁護士こそ、本書『山口組 顧問弁護士』の著者、山之内幸夫氏である。1976年頃から約40年にわたり 、世界的にも最大規模の暴力団組織である山口組の顧問弁護士を務めた著者。80年代にはNHKが制作した山口組ドキュメンタリー番組の窓口も担当するなど、山口組のスポークスマンとしてヤクザ社会とマスコミの橋渡しをしてきた。

 本書は、そんな稀有な弁護士人生を歩むことになった著者だからこそ知り得た、山口組の歴代親分や幹部、さらには弁護活動を通して出会ったヒットマンに走った若衆などを含めた構成員たちの生き様や苦悩、喜怒哀楽、そしてドラッグや民事介入などヤクザ稼業のリアル、そして昨今の山口組分裂に関する著者の見解などを伝えてくれる内容だ。

 また、山口組を中心とする現代ヤクザの変遷・人間模様が、著者の社会常識を持ったカタギとしての客観的な視点と、弁護士として組と関わった主観(身内)的な視点の双方から描き出されているのも、本書の大きな特徴だろう。

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 そもそもなぜ、暴力が日常というヤクザ社会に飛び込む人がいるのか? また、反社会的組織でありながら、なぜ日本には公然と存在するのか? 本書はこうした素朴な疑問に答えることにも一役買う。というのも、これらの真相を明かしたいという好奇心こそ、弁護士として山口組に関わるという決断に著者を駆り立て原点になったからだ。

 本書によれば、構成員になる背景には大きく3パターンあるという。ひとつは在日朝鮮人や同和地区出身者などで、行き場を失った人たち。もうひとつは、親や家庭・学校など、非行の抑止力の恩恵を得られなかった、もしくは求めなかった人たちだ。意外にも3つ目は、企業経営者などが事業の失敗を機に、債権請求を排除する「整理屋」(ヤクザが収入源とする民事介入暴力のひとつ)と出会い、その後に経営知識を活かしてヤクザに転身することも多いという。

 こうしたヤクザ社会を総じて著者は、「社会から落ちこぼれた人間や行き場を失った人間のセーフティーネット」であり、人生において倒産・破産などで身を持ち崩した「脱落者たちの敗者復活戦の場」と記している。

 しかしもちろん、安易なヤクザ・デビューを勧めたりはしない。ヤクザ社会にもいろんな人間がいて、中には若衆を奴隷のように扱う親分などもいると前置きしてこう記す。

自分さえよければ良いというヤクザに拾われると、ハンデそのままの底辺で生きた方がよほど良かったという羽目になる。体に墨を入れられ、指を無くし、前科を重ねてほうほうの体でヤクザ社会から逃げることになる。身も心もぼろぼろの人生だ。

 また、反社会的組織でありながら公然と存在する理由について著者は「地下に潜らせないようにするため」だと指摘する。とはいえ本書によれば、法改正や取り締まり強化により、昨今、ヤクザ社会の根幹はかつてなくグラついているそうだ。その分、シノギ(収入)を求めて、表社会との接点を増やしているという現実もある。

 各種の詐欺、夜の街やネットの怪しげな誘惑など、日常生活においていつの間にかヤクザ社会との接点ができてしまう可能性が広く潜むいま、彼らの世界をざっと一望できる本書を一読しておくことは、決して無益ではないだろう。

文=町田光