ニュートン、ヘンリー8世…。世界史を賑わせた「問題児(クズ)たち」のゲスなエピソードとは?
更新日:2017/5/15
某ゲスな極みのボーカリストが、不倫だなんだと話題になってクズ呼ばわりされていたおりに、愛人を作り5000万円の借金を残して蒸発した私の親父と、どちらがクズだろうかと考えた。比べるにしても、よりクズな方を上と見るべきか下と見るべきか、それが問題だ。しかし世界史を眺めてみれば、まったく比較にならないくらいのクズがいたことが、『歴史系倉庫 世界史の問題児たち』(亀/PHP研究所)を読むと分かる。「問題児」に「クズ」とルビが振ってある本書は、可愛い絵柄の4コマ漫画であるものの、学習漫画には出てこないクズなエピソードが描かれており、それはときに凄惨でときに壮大だ。
紀元前6世紀頃、メディア王国のアスティアゲス王は夢を神のお告げと信じ、娘を辺境に追いやってしまう。それだけでも父親としてどうかと思うが、後日に別の夢を見て災厄は娘ではなく、その子供だとして部下に孫を殺すよう命じる。しかし命じられた部下は、娘から「父の気が変わって王孫殺しで処刑されないよう祈ることね!」と云われ、羊飼いに王の孫を託した。
アスティアゲス王のゲスさはこの後で、本当に気が変わり孫を殺してしまったと悔いたため、孫殺しを命じられた部下が実は孫は生きていますと報告する。王は孫にキュロスと名付けて後継者に指名する一方、部下は命令に背いたからと、部下の息子を調理して食べさせ忠誠心を試したという。そして、ことの真相を知ったキュロス2世は、暴君である祖父を倒しアケメネス朝ペルシャを建国することになる。
王族の傍若無人ぶりのエピソードは他にもあり、個人的に興味深く読んだのはイングランド王ヘンリー8世だ。最初の妻が亡き兄の未亡人なのはともかくとして、女の子を一人しか産めなかったことから離婚してしまう。当時のキリスト教圏における婚姻は神の祝福と考えられ、教会により離婚は許されなかったのだが、ヘンリー8世はローマ・カトリック教会から離脱すると、イングランド国教会を設立し、自らを国教会の長に置いて離婚にこぎつける。つまり、離婚するために宗派を作ってしまったんである。しかもその後は、2人目の妻をやはり女児しか産めないからと処刑し、次の妻は病死となるも、4人目は美人ではないからという理由で離婚して、5人目は不義密通の疑いでこれまた処刑、生き残ったのは6人目にして最後の妻だけだったそうだ。
実は私の親父が、この宗派の信徒で私もまた洗礼を受けている。教会の勉強会で、成り立ちである最初の離婚話は知ってはいたけど、後の話は聞かされてませんよ、牧師先生……と、本書を読んで自分の信仰が揺らいだことを告白したい。
血生臭い本書の中にあって、万有引力の法則を発見したニュートンのエピソードなどは微笑ましいくらいだ。学生時代のニュートンの才能を引き出したバロー先生は、作者によると「親切が人間に変身したような数学者」だったそうだが、そのバロー先生から本の校正を依頼され実験結果に間違いを見つけたニュートンは、そのまま発刊させて自分が正しい見解を示せば「ぼくの名声は上がる!」と考え黙っていたという。なんとも、清々しいクズっぷりである。
本書に登場する偉人たちに比べてみれば、ゴシップ誌で話題になる不倫などは、上でも下でも大差ないなと思えてしまう。まぁ、それで壊れる家庭もあり、他人まで巻き込むことがあるのだから、人々から非難されるのは仕方のないところなのかもしれないが。ただ、心理学的には他人の不道徳な行為に過度に怒るのは、その行為に憧れている裏返しだとする説がある。私としては、羨ましくありませんと表明するために、非難せず他人事として面白がるだけにしておこう。それもまた、クズであろうか。
文=清水銀嶺