「レンタルビデオ全盛期」に粗製濫造された「悪趣味ビデオ」の数々! 時代に狂い咲いた「ゴミ映画」への鎮魂歌

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公開日:2016/11/3

『悪趣味ビデオ聖書(バイブル)』(山崎圭司/洋泉社)

 現在、映像記録メディアの主役といえば、ブルーレイディスク(BD)ということになるだろう。2000年代前半はDVDが主流メディアだったが、2000年代後半にBDが流通しだしてからは2010年頃には立場が逆転していった。栄枯盛衰は世の常だが、2000年に突入してからはメディアの移り変わりが特に激しいと感じる。なぜなら2000年以前、実に30年もの長きに亘って君臨したメディアの王様がいるから。それが「ビデオ」だ。

 広義の意味でいえばDVDやBDもビデオだが、記録メディアとしてはDVDやBDに対して「ビデオテープ」ということになる。ここでは一般的にビデオと略すが、1970年頃に流通し始めたこのメディアは、その取り扱いやすさから家庭用に普及していった。

 これまで映画館やテレビ放送でしか観られなかった映画が自宅で手軽に楽しめるというのが最大のウリで、映像を扱う企業各社はこぞって映像作品をビデオ化。しかしその価格は1万円前後になるものが多く、気軽に買えるわけではなかった。そこへ登場したのが「レンタルビデオショップ」である。安価で作品を借りられるこの店の登場で、ビデオの裾野は一気に拡大。多くの映像作品が市場に流れることになった。

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 何事でもそうだが「爆発的な普及」は「粗製濫造」を生む。ビデオも例外でなく、名作の陰で珍作、駄作も数多く製作された。『悪趣味ビデオ聖書(バイブル)』(山崎圭司/洋泉社)には、およそ一般の人はほとんど知らないであろう奇天烈な作品が大量に紹介されている。そしてその多くは、現在ではほとんど入手不可能なシロモノだ。

 なぜ入手不可能かといえば、それは「流通する価値のないもの」と烙印を押されたから。つまり本書の著者陣が連呼する「ゴミ映画」ということだ。内容もなければ映像は過剰にグロテスクで、現在なら販売することすら許されないような作品──それが「悪趣味ビデオ」と定義してもよいであろう。

 こういう「悪趣味ビデオ」で大まかに共通するのは、センセーショナルな部分やインパクトのある部分を前面に押し出していることだ。それはジャケットを見れば一目瞭然で、原題『SHINING SEX』という作品は邦題『SF・SEX 異星人のえじき』となり、オールヌードの金髪美女が一面を飾る。また邦題『狂ったメス』という作品では、男が女性の顔を真っ二つに裂いている衝撃のジャケットだが、メスといいながら手に持っているのが包丁っぽいあたりに脱力感が漂う。過剰なアオリ文句がジャケット狭しと並ぶことも多く、第一印象のみで勝負しようという姿勢がアリアリだ。

 このテのビデオの「邦題」というのは、販売元によって付けられることが多い。ゆえに原題とは関わりなく、巷で一番キャッチーなフレーズが用いられたりする。例えば1983年に公開された『食人族』が話題となったとき、レンタルショップに並んだ作品が『食人大統領アミン』。別に「食人」をテーマにした内容ではなく、世相を反映したのだろう。ただ、アミンは実在の人物で「人喰い大統領」の異名があったことは事実でもある。この他にも1987年公開の『危険な情事』がヒットすれば、『危険な事情』という紛らわしいタイトルが生まれたりする。無論、関係は一切ない。

 本書はこのような「ゴミ映画」を紹介する形式を採っているが、本当の意味で勧めているわけではない。あくまで「興味があればどうぞ」というスタンスだ。本来ならほとんどの人に知られずに消えていく宿命の泡沫ビデオを、少しでも多くの人に知ってもらいたいという想いもある。主に1980年代の「レンタルビデオ全盛期」の時代に狂い咲いた「悪趣味ビデオ」という徒花への、まさしく鎮魂歌というべき大著であろう。

文=木谷誠