「たこ焼き代」「テーマパークチケット代」は必要経費? 経理部の地味系美女が見た社員たちの裏の顔
更新日:2017/11/13
たった1枚の領収書から、会社の内情がわかることがある。たとえば、営業は、会社に血を巡らす心臓部でありながら、使われる経費は社用と私用の区別が曖昧。擦れた大人たちは、時にズルい手を使う時もある。何が経費として落とせるのか、何が私用なのか。経理の仕事は数字と睨めっこすることではない。会社の財布を担う者として、財務の立場から、社員の仕事や人間関係に目を光らせることだ。
青木祐子の『これは経費で落ちません! 経理部の森若さん』(集英社)は、とある経理部OLが社内の裏事情を垣間見るお仕事ストーリー。5月に発売されて以来じわじわと売り上げを伸ばし、重版に重版を重ねている人気作である。『風呂ソムリエ 天天コーポレーション入浴剤開発室』の関連作品だが、同じ会社を舞台にしながらも、違う方向からその会社を描き出している作品だ。地味で単調な仕事に思える経理の仕事も、完璧にこなせば、自然と、社員の裏の顔が見えてくるものらしい。それは時に微笑ましいものもあり、時に思わず苦笑させられるものもある。
主人公は、森若沙名子、彼氏いない歴イコール年齢の27歳。入社以来、天天コーポレーションの経理部に所属する彼女のモットーは「イーブン」。数字上バランスのとれた状態をこよなく愛し、普段の生活も過剰なものも足りないものもない、完璧な生活を送っているつもりだった。しかし、同期に恋人ができてからというもの、満ち足りたはずの生活に少し迷いを感じ始めている。そんなある日、営業部のエース・山田太陽が持ち込んだ領収書は「たこ焼き代」「テーマパークチケット代」など問題ありそうなものばかりだった。果たしてこれは私用なのか、社用なのか。状況を探るうちに社内の人間模様が見えてきて…。社内の噂など極力聞きたくないし、仕事とプライベートは分けたい。そんな彼女だったのに、気がつけば、自身も会社の人間模様に巻き込まれていく。
皺ひとつない経理部のブルーの制服。つやつやしたセミロングの内巻きの髪に、しっとりとした肌に施されたたナチュラルメイク。スクエアの短い爪に桜色のマニキュア…。全く隙のない地味系の美女、それが経理部OL・森若だ。仕事までもが完璧。頭の切れの良さ、勘の鋭さから領収書の裏に隠された人間模様に気付きながらも、彼女はそれに固執せず、自分に与えられた仕事の範囲として必要最低限の処理をする。決して派手なアクションを起こすことはないが、問題はきちんと解決する。周りの社員たちは、そんな優秀さを慕い、頼ってばかり。いつも彼女を振り回してばかりいる。
森若を取り囲む人たちは、何だかちょっぴり面倒くさくて、ズルい人ばかりだ。ケアレスミスが多い経理部後輩・佐々木真夕。噂話大好きで、恋愛のことしか頭にない営業部・中島希梨香。空気が読めない新人受付嬢・大谷咲。人を疑うことを知らず、お人好しでお調子者の営業部エース・山田太陽…。愛社精神にあふれるものもいれば、そうでないものもいるし、仕事に全力を注ぐものもいれば、それ以外のことに気を取られているものもいる。そんな彼らを見ていると、「あぁ…うちの会社に、こんな人いるよな…」と思わされてしまう。時に怪しい行動をとる姿に呆れさせられ、失笑させられることもある。だが、どういうわけか、登場人物たちはみな憎めない。たとえば、営業部エース・太陽は、口ばかり達者な軽薄なオトコだが、不器用な等身大の姿が何だか微笑ましくもある。太陽は森若にそっと好意を寄せているようだが、その恋心が隙のない彼女に届く日はくるのだろうか。
地道に冷静にこなさなければならない経理の仕事。それをそつなくこなす森若はなんと素敵な女性だろう。地味にも見えるが、でも、すごい。そんな経理部の仕事をこの小説で覗いてみてはいかがだろうか。
文=アサトーミナミ
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