杏「連綿とした史実と自分とのつながり。それを感じられるのが、歴史小説を読む醍醐味」
更新日:2016/11/11
「中学生のとき、マンガ『風光る』をはじめとする新選組を扱ったマンガがはやったのですが、授業で幕末を習っていたこともあり興味を持っていると話したら、いろいろな切り抜きや資料と一緒に祖父が『幕末新選組』を送ってくれました。折に触れて本をプレゼントしてくれる祖父だったんです」
作中に出てきた史跡を巡ることも多いという杏さん。自分自身と別世界の物語でありながら、同時に連綿としたつながりを感じられるのが、歴史小説を読む醍醐味だという。
「ちょっとでも知っている場所が出てくると嬉しくなります。小樽にある永倉新八のお墓は訪ねられていませんが、札幌でたまたま彼が訪れたという場所を通りがかったときは、思わず写真を撮ってしまいました。いまは、垣根涼介さんの『室町無頼』を読んでいます。垣根さんはビジネス系の小説を書かれているイメージが強かったですが、初めての歴史小説だという『光秀の定理(レンマ)』が非常に面白かったんです。いずれ大河ドラマの原作にならないかな、とひそかに期待している作品です」
初主演映画『オケ老人!』は、老人だらけのアマチュア・オーケストラに間違って入団してしまった高校教師・千鶴が、経験もないのに指揮者を任される物語。老人たちを導いているつもりが、パワフルな老人たちに押されながら音楽の楽しさを教えられていく。
「あくまで老人役を演じているだけだとおっしゃる若々しい大先輩方の緩急ある演技に、思わず笑ってしまった場面もありました。コメディ映画ではありますが、笑わせるための演技をしようなんて誰も考えてはいなくて、全員が、あくまで自然体に市井の人々を演じたからこそ、素のおかしみが浮かびあがったんじゃないかと思います。本筋と関係ないところでひそかに張られている伏線もありますので、観客のみなさんには、ぜひ細部に目を光らせながら見ていただきたいです。私も完成版を観て初めて気づいた面白さがたくさんあったんです。監督も『自分で探してください』と言って教えてくれなかったので。随所にそういう遊び心が満載なんです」
聴くに堪えない老人オケが、どんどん演奏の腕を磨いていく過程もみどころのひとつ。収録に3日かかったという最後のコンサートシーンの迫力は圧巻だ。
「実はその直前で撮っていた練習シーンのほうが大変で。演技で監督のOKが出ても、演奏がNGだから撮りなおしということも多かった。楽器ごとに監修の先生がついているので、人数が増えるほどチェックも厳しくなるんです。その苦労を乗り越えたせいか、コンサートシーンを撮影するときはみんなの息が合うようになっていて、むしろ予定よりも早めに終わってしまいました。素晴らしいチームワークが発揮された状態で、全員と目を合わせながら指揮棒をふっていたそのときは、私自身、感極まるものがありました。自分の気持ちさえあれば、いくつになっても好きなことに挑戦できるし、全員で何かを作りあげていくことは楽しいんだということを教えてくれる映画だと思います」
(取材・文=立花もも 写真=干川 修)
あん●1986年、東京都生まれ。2005年からモデルとして海外で活躍、07年、主演ドラマ『名前をなくした女神』でエランドール新人賞を受賞。NHK連続テレビ小説『ごちそうさん』で注目を浴びる。主な出演作に、ドラマ『花咲舞が黙ってない』『デート~恋とはどんなものかしら~』など。2冊目のエッセイ集『杏の気分ほろほろ』が発売中。
ヘアメイク=平元敬一(NOBLE) スタイリング=佐伯敦子
衣装協力=ニット 5万4000円 スカート 7万4000円 ※ともに税別 靴 参考商品(アンテプリマ/アンテプリマジャパン TEL0120-03-6962)
幼いころから青春のすべてを剣術に注いできた永倉新八。家督を継ぐことを放棄し、武者修行に出た江戸で近藤勇に出会った彼は、やがてその生涯を新選組に捧げることとなる。77年の長寿をまっとうした永倉は、幕末の動乱をいかに生き、戦い抜いたか。不器用で一本気な一人の侍、その生き様を描き出す。
映画『オケ老人!』
原作/荒木 源『オケ老人!』小学館文庫 監督・脚本/細川 徹 出演/杏、黒島結菜、坂口健太郎、左 とん平、小松政夫、藤田弓子、石倉三郎、光石 研、笹野高史 配給/ファントムフィルム 11月11日(金)全国ロードショー
●老人だらけの梅が岡交響楽団に間違えて入団してしまった高校教師の千鶴。聴くに堪えないオケの指揮者をするはめになり、やめる機会をうかがっていたが、老人たちのパワーに押されるうちに音楽の本当の楽しさに目覚めて……。
(c)2016荒木 源・小学館/「オケ老人!」製作委員会