ワークライフバランスなんてありえない? 仕事を減らさず残業をなくす具体的な方法とは?
公開日:2016/11/11
私事だがこの夏、転職をした。職場の時間管理のルーズさに嫌気がさした のが大きな理由のひとつだ。転職活動をして気づいたが 、「ワークライフバランス」という言葉はすっかり世間に定着したらしい。転職サイトに掲載された各社の紹介文には、仕事内容と同じくらいワークライフバランスのよさがアピールされていた。もはや全てを犠牲にして職務をまっとうすることを要求する会社は時代遅れで絶滅危惧種のようだが、はたしてそうなのだろうか?
ワークライフバランスが本当に整っている会社の方が(業界によるかもしれないが)希少ではないだろうか。ほぼ定時で帰る人がいる一方で、常に遅くまで働く部署や個人はたいていどこの会社にもいるのである。職場から「残業」や「長時間労働」はなくせないのだろうか?
そんな疑問を持ち残業をなくしたいと思うなら『職場の問題地図 「で、どこから変える?」残業だらけ・休めない働き方』(沢渡あまね/技術評論社)を一読することをおすすめする。職場にありがちな問題はなぜ起こるのか、原因を図解で示しつつ、解決策を教えてくれる。
どのような問題かというと「手戻りが多い」「無駄な会議が多い」「仕事の所要時間を見積もれない」「過剰サービス」など11項目だ。どれも昔からどこの職場にでもある普遍的な問題である。
まず、仕事は5つの要素でとらえる。(1)目的、(2)インプット、(3)成果物、(4)関係者、(5)効率、である。「仕事をする」ということは、「インプットを成果物に変える」取り組みだ。そのためには、「何のために、だれのためにその成果物を生み出すのか?」を意識せねばならず、また、たいていの仕事は自分ひとりでは完結できず関係者を意識する必要がある。(5)効率は、進め方や期限、コストを指す。まずはこの5つを確認し、チーム内でも認識を合わせることが重要である。こうすることで「手戻りが多い」「上司・部下の意識がズレている」などの問題は解決できる。
面白いのが「属人化」問題だ。“○○さんでないとできない仕事”というのがあなたの職場にもないだろうか。これには“認められたい”というヒトの承認欲求が関係している。このため「属人化はなくならないさ、人間だもの」と著者は言い切り、なくならない、だから「うまくつき合う方法」を考えるべし、としている。
仕事を「あたりまえ部分」と「付加価値部分」の2つの要素に分解したとき、チームとして最低限やらなければならない「あたりまえ部分」は属人化してはならない。属人化は完全にはなくせないが、軽減することは可能だ。まずは現行業務を洗い出し、チーム全員で属人化にどうつきあうのかのスタンスを決めることをすすめている。
「当社には“ワークライフバランス”なんて言葉はありません」これは著者がかつてある会社の中途採用の面接で言われたセリフだ。なぜならその会社の社員はほぼ毎日定時で帰っていて、ワークライフバランスなんて気にする必要がないからだという。
「ワークライフバランスなんて言葉が必要でない社会、これこそあるべき姿だと思う」と著者はおわりに書いているが、同意である。生産性は長く働けば上がるものではない。よい仕事をするためにも疲弊しないことは重要だ。何より仕事と同じように生活も大切である。
本書は、残業をなくす具体的な方法の手引きだ。残業をなくすとは、定時までに仕事を終えることで、仕事を減らすことではない。それは効率やクオリティを上げることで達成される。残業問題だけでなく、仕事の方法論としても役に立つ一冊である。
文=高橋輝実