イジリー岡田はなぜアイドル仕事の第一人者でいられるのか? 今でも大切にしている、芸能界に入った頃にマネージャーから言われたこと
公開日:2016/11/12
男性タレントにとって女性アイドルとの共演は非常に難しい仕事だ。なれなれしくしすぎればファンから妬まれるが、突き放しすぎても怒りを買う。NG事項やグループアイドルの人間関係も配慮しつつ、現場を盛り上げなければならない。
しかし、そんなアイドルの現場で30年近くも活躍し、アイドルからは信頼され、ファンからも愛されている奇跡のような存在がいる。お笑い芸人のイジリー岡田だ。高速ベロにブリーフ姿など下品な芸風を身上とするイジリーがどうしてアイドル仕事の第一人者でいられるのか? 著書『イジリー岡田のニッポンのアイドル』(主婦の友社)にはその答えがあった。
まず、イジリー自身が学生時代から熱心なアイドルファンだったことが挙げられる。1964年生まれで中学時代から石野真子の大ファンだった岡田少年は、高校に入って出会った親友の「ナカヤマくん」からアイドル教育を受けてイベントにも頻繁に通うようになった。その後も小泉今日子、水谷絵津子、菊池桃子など80年代アイドルに次々と惹かれていく岡田少年。ベトナム出身のルー・フィン・チャウにいたってはナカヤマくんと二人で日本向けのサインを考えてあげたという。青春をアイドルに捧げたことでイジリーはアイドルファンの心理が分かるようになっていた。その共感能力はホリプロ所属のお笑い芸人になった後も、アイドルイベントでのMCで存分に活かされることになる。どんなにファンが興奮していても不愉快にさせずに静められるのは、イジリーの言葉がファンへの思いやりを常に含んでいるからだろう。
次に、イジリー岡田が徹底して気づかいの人だからだ。91年、バブル景気を象徴する景気のいいエッチな深夜番組がスタートした。伝説となった『ギルガメッシュないと』である。レギュラーに抜擢されたイジリーはスタッフに言われるがまま、番組のエロ担当を突っ走っていく。AV女優の自宅を訪問して下着を嗅いだり、裸のストリップダンサーに背中を流してもらったり、下品の限りを尽くしたイジリーは、番組に残りたい一心で過激な芸風を極めていった。しかし一方で、共演する大勢のAV女優たちへの配慮も欠かさない。イジリーには個性的な出演者同士が仲違いを起こさないように見守る役目が番組側から与えられていたのである。その潤滑油としての優秀さは一時的にイジリーが降板した8ヶ月の間に現場の空気が悪化し、レギュラーメンバーだった故・飯島愛がプロデューサーにかけあってイジリーを呼び戻してもらった、というエピソードが物語っている。イジリーの重要性は視聴者にも伝わっていた。8ヶ月の間に「イジリーを戻せ」とテレビ局に送られたハガキは約600枚にも及んだのだ。
そして、いつでもアイドルを応援し、ファンのために仕事をするという意識を持ち続けていることが何よりも重要だろう。『ギルガメ』終了後、深夜のイメージがついたイジリーの仕事は激減するが、『ギルガメ』世代が成長しアイドルファンの中核である30代、40代となった今、イジリーの再評価が起こる。それに合わせてAKB48や乃木坂46といった大人気グループとの共演が増えていく。2016年現在、50歳を過ぎてもイジリーは精力的にアイドル仕事をこなしている。まるで娘のような年頃のAKBや乃木坂メンバーを語るイジリーの文章には、アイドルという仕事への深い尊敬があふれている。そして、そんなアイドルを立てるために「ヨゴレ」になり、ファンが喜んでくれることにやりがいを感じてもいるのだ。
イジリーは今でもホリプロに入ったばかりの頃、マネージャーから言われた言葉を忘れていない。
「アイドルはお姫様として扱うこと」
「自分たちは前へ前へ出ようとするな」
「笑いをとろうとする気持ちはわかるけど、アイドルがかすむようなことはするな」
芸能界に入って最初に教わったことが、今でもボクのすべてなんだから不思議なものです。
再婚も果たしてノリにノっているイジリー岡田は、これからも愛すべき「太鼓持ち」としてアイドルを輝かせ、ファンを笑顔にしていくことだろう。本書にはそんなイジリーの生き様が詰まっている。
文=石塚就一