「わが子が怖い」「疲れた」…560万PVの人気ブロガーが描く、リアルな子育てコミックエッセイ 『むすメモ!』がおもしろい!
更新日:2016/12/12
人気ブロガーの育児マンガが、またひとつ出版された。「妊娠・出産・育児」はコミックエッセイでも人気のジャンルで数多くの本が出ている。だから「もうおなかいっぱい」、なんて思ったら大間違い。『むすメモ! 妊娠中~2歳』(つかさちずる/メタモル出版)は、今までのものとはひと味違う。いい意味で異彩を放っているのだ。
おもしろいのに涙がこぼれる
この本は、まず登場人物の描き方がすごい。作者自身をはじめ、大人は全員なぜか大胆にデフォルメされていて、人間の形をしていないのだ。子どもだけが人間の形をしていて、だからこそ子どものかわいさや存在が際立っている。
そして、妊娠中~出産、0~6か月……と子どもが2歳までになるまでの出来事が、時系列に独自の視点で描かれていく。読者は、子どものかわいさや成長していく様子だけでなく、作者が親として経験を重ねていく姿をも見ることができる。つわりに苦しんだ妊娠中、子どもが生まれた瞬間の感動、お母さんをやめたいと思った日のこと、子どもの成長を喜ぶと同時に寂しさを感じた2歳の誕生日――読みすすめるうちに、まるで作者と一緒に子育てを体験しているような感覚になって、思わず笑ったり泣いたり。
出産・育児は、自分のことになると一世一代の大仕事。でも、多くの人が経験している「ありきたり」な出来事でもある。この「ありきたり」と「自分らしさ」の間を上手に往き来するのがうまいエッセイストである。だとすると、この作者はまちがいなくうまい。さらに四コマ漫画以外にも、続きものの漫画もあったり、エッセイがあったり、絵日記があったりして、授乳や離乳食などの役立つ情報も載っている。子どもがかわいく、ほほえましいだけのコミックエッセイではないのだ。
よくぞ言ってくれたの爽快感!
もうひとつの見どころは、正直さ。子育てには楽しいことも多いが、大変なことも多い。特に新生児期、産後すぐの母親は体力を使い果たして疲れているし、ホルモンの状態も不安定。それなのに、新生児はひっきりなしに泣いて休む間もないからだ。作者も、産後うつと呼ばれる状況に陥った。そのときは「我が子が怖い」と思ったという。そんな自分を卑下も美化もせず、等身大に描いている。
この正直さに救われるひとは多いだろう。なぜなら、子どもが生まれることは幸せで喜ばしいことだし、親が子どもの世話をするのは当たり前なので、特に新米親は「こんなふうに思うなんて親失格」と思ってしまいがちだからだ。しかも、育児雑誌やフェイスブックなどのSNSにはキラキラした親たちがたくさんいて、本音は言いづらい。
さらに、いまだ「女性には母性があるから、育児が得意」などと母性に幻想を抱いている人は多いし、女性は親になった途端に「母親らしく」という無言のプレッシャーを浴びる。でも、子どもを産んだからといって急に人が変わるわけはなく、母親だって人間だ。疲れもすれば、嫌になることもある。育児に男も女もない。
実際は、どれほどかわいくても、子どもの世話は疲れる。だからこそ、作者が「わが子が怖い」「疲れた」などという口にしづらい本音を、率直に語っていることに爽快感を覚えるのだ。
この本は、これから出産を考えている人や妊娠中の人なら間違いなく予習になるし、まさに乳幼児を育てている人は深く共感できるだろう。また、すでに子どもが大きい人も当時の出来事を思い出しながら楽しめると思う。そして、産後の「母」たちの大変さを理解してもらうため、ぜひ「父」たちにも読んでもらいたい一冊だ。
文=武藤徉子