これを読まずして物語は完結しない!『君の名は。』のアナザーストーリーが、本編並に感動必至!【ネタバレあり】
更新日:2016/12/8
8月に公開されて以来、今もなお大ヒットし続けている映画『君の名は。』。興行収入200億円突破を目前に控え、異例のロングランとなっている。中には、2回、3回と劇場に足を運ぶ人も続出しているとか。筆者もRADWIMPSの名曲と共に滝のような涙を流した1人なわけだが、そんな映画の感動がさめやらぬ人にこそ絶対おすすめしたいのが、この『君の名は。Another Side:Earthbound(角川スニーカー文庫)』(KADOKAWA)である。
映画の内容を簡単に説明すると、東京に暮らす男子高校生・瀧と、田舎町の女子高生・三葉の身体が入れ替わってしまう。瀧は三葉の身体で、三葉は瀧の身体で、それぞれ性別や生活環境の違いに戸惑いつつも、徐々にお互いのことを理解しあい距離を近づけていく。ここだけ読むと入れ替わり系の王道ラブストーリーだが、予想をいい意味で裏切る後半の展開には、多くの人が驚いたはずだ。
しかし、尺の問題か意図的なのか、本編はやや駆け足で進むシーンが多く、説明不足な部分も存在する。号泣したものの、あれってどういう意味だったんだろう……と、もやもやした気持ちを抱えながら劇場を後にした人もいるのではないだろうか。
瀧は三葉の身体のとき、ずっとノーブラ状態だった……。
たとえば、三葉と身体が入れ替わっている瀧が、授業でバスケをおこなうシーン。シュートを決めた三葉の胸に、男子の視線がものすごく集中している例のシーンである。三葉は決して貧乳ではないが、特筆するほどの巨乳でもないので、いくら運動をしていて胸が揺れたとしてもやや疑問の残るシーンだった。違和感のあるこの場面も同書を読めばその謎は解ける。
「隣のコートの周辺にいる男子連中が、ほぼ全員、瀧のほうを見ていた。(中略)早耶香が駆け寄ってきて、深刻な顔で『ちょっとちょっと』と体操服の袖口を引っ張ってきた。小声で何か話しかけてくる。『あんた何やっとるの』『え?』『何しとんの』『何って?』『…つけてないの?』『はい?』『みんな、凄い見とるって』」
友人である早耶香に指摘されるまで、三葉の身体をした瀧はずっとノーブラ状態で過ごしていたのである。そんな三葉(瀧)のうかつさに、男子の視線は一点に集中していたのだ!
それぞれのキャラがもっと愛おしく感じられるようになる
身体が入れ替わったというのに、相手の生活にすんなりとけ込み過ぎでは? という点も、映画を観ていてやや気になった。真逆の環境にもかかわらず 、数回の入れ替わりで2人は要領を掴んだようで、互いの生活、身体、家族や友人たちともあっさり馴染んでいる。入れ替わっている間も、周囲の友人や家族は「今日ちょっと変じゃない?」程度のふんわりとした疑問しか抱かないのも不思議だ。
この点について、本編では描かれなかった瀧の地道な努力を本書では知ること ができる。実は、三葉が携帯に残したメモをヒントに女子っぽく話す練習をしたり、ブラジャーをつけるため試行錯誤したりと、環境に適応するため瀧なりに苦心していたのだ。ほかにも、テッシーこと勅使河原がなぜあんなに爆破に協力的だったのか、妹の四葉は入れ替わった三葉のことを本当はどう感じていたのかなど、キャラクターたちの心理が丁寧に掘り下げられている。本書を読んでから、もう一度映画を観れば、より生き生きとキャラの心情を理解できるだろう。
そして絶対読んでいただきたいのは、映画ではかなりイヤな奴で終わっている、三葉の父のエピソード。読み終わったあとは映画だけではなく、小説でも、滝のような涙を流しているはずだ。
本作は今年最大のヒット映画となった『君の名は。』の感動を、より深く味わうためにも必携の一冊となっている。
文=藤野ゆり(清談社)