ねこを見るねずみの視点がおもしろい! 1匹のねこを通じて世界の多様性を教えてくれる、新絵本『ねこってこんなふう?』が話題!

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/13

 人が変われば見ている世界も変わるもの。同じ映画を観てまるで違う感想を抱くこともあれば、なにげない言葉が意図しない伝わり方をすることもあります。同じ人間同士でさえそうなのだから、生物の種が異なれば、その瞳に映る世界は千差万別でしょう。そんな疑問を色鮮やかに解消してくれるのが絵本『ねこってこんなふう?』(ブレンダン・ウェンツェル:著、石津ちひろ:訳/講談社)です。

『ねこってこんなふう?』(ブレンダン・ウェンツェル:著、石津ちひろ:訳/講談社)

 本書を推薦している脳研究者の池谷裕二さんいわく、「ヒトの脳が解釈している世界と、他の生き物たちの脳が解釈している世界は同じではありません。生き物は周囲の世界について、それぞれ独自に見て固有の認識をしています。これを『環世界』といいます」。つまりただの勘違いや認識違いなどではなく、生物によって“本当に”見えている世界が違うのです。

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 池谷さんによれば、ヒトの視界は「赤緑青」の3原色で構成されていますが、昆虫や鳥は「紫外線」が見えるので4原色。人間には見ることのできない光をとらえるために、視界がゆがんでいたり、認識できる色が多かったり少なかったりすることもあるでしょう。へびは前方60度前後しか見ることができないし、首が左右135度ずつまわるフクロウは、物理的に視界が広がることにくわえて、夜の闇を飛び回るのに適した眼を持っています。水中で活動する魚の眼は、人間には想像のつかない光の屈折をもちいて世界を映しているはずです。ですが、理屈でしくみを理解できても、私たちは他の生物が見ている世界を味わうことはできず、想像することしかできません。本書はその想像を助け、私たちの眼のかわりとなって、1匹のねこの姿を通じ、世界認知の多様性を教えてくれる一冊なのです。

 犬、ねずみ、金魚、きつねにへび。のみや蜂、それにスカンク、などなど。

 それぞれの生物から見たねこはどんなふう? え、これが本当にねこなの? と首をかしげたくなるくらい、その眼に映る光景はさまざま。同じ世界にいるはずなのに、彼らはこんなにも別の世界を生きていたのかと驚くはずです。

 「どんなものでも見方をちょっと変えれば、まったくちがった側面が見えてきます。当たり前のことなのに案外と忘れがち。世界は発見に満ちていることを気づかせてくれる、万華鏡のような絵本です」。池谷さんがそう推薦するように、本書は驚きと発見の連続。未知の体験にあふれている子供にとってはもちろんですが、「世界は世界であり、目の前に見えているものだけが事実」と思い込みがちな大人のほうが、より世界のまばゆさに気づかされるでしょう。そして本書のラストで、“見られる”一辺倒だったねこがその眼に映したものを見れば、なおさら。

 かわいがっている犬は、毎朝みおろしてくるカラスは、隙あらば刺そうと狙ってくる蚊などの虫は、自分のことをどんなふうにとらえているのだろうと想像してみるのも楽しい。本書という新しい「眼」を通じて、世界の新しい姿をぜひ見つけてほしいと思います。

文=立花もも