アルバイトの面接に行ったら店主が妖怪だった!? そこから始まる“縁”の物語
更新日:2016/12/8
「袖触れ合うも多生の縁」という言葉があるように、起こる事象は単なる偶然ではなく、何かしらの因縁によって起こっている、という仏教の教えがある。物語でいう、“伏線”や“フラグ”に値するものだ。『幽遊菓庵 春寿堂の怪奇帳』(孫之手ランプ:著、真鍋卓:原作、二星天:キャラクター原案/KADOKAWA)は、そんな“縁”をテーマに描かれている物語。原作は富士見L文庫から出版されているライトノベルで、先日ビーズログコミックスからコミック版も発売された。
物心ついた頃から妖怪や幽霊など人ならざるものが見え、そのせいで散々な目に遭ってきた主人公・秋夜名月。秋夜はトラブルを恐れて人をも遠ざけるようになり、結果、住所不定の無職になってしまった。そんな中見つけた、個人経営の和菓子屋のアルバイト求人広告。経験不問で住み込み可と、今の秋夜にぴったりの募集だった。しかし面接に向かうと、なんと店主は、狐の妖怪だった――。
秋夜はアルバイトを断ろうとするが、その狐の妖怪・玉藻に「世の中というのは縁でできている」「一度できた縁はそう易々と覆すことはできん」と言われ、視える体質をどうにかしてもらうという条件で、この和菓子屋・春寿堂で働くことになってしまった。そしてここからまた、秋夜の壮大な“縁”が紡がれていくこととなる。
秋夜は、初仕事で早速、梅の木に憑いている、人を憎んでいる霊に呪われてしまった。そして自分の命を守るため、解決策を探す。なぜこの霊が人を憎んでいるのか、考える。その中で、起こったこと、感じたこと、見たこと、聞いたことなど、とにかく物事はすべて が繋がっていて、終わったことのようで終わっていない、ということに気付いていく。
思い返せば現実でも、趣味や昔勉強したことが仕事に繋がったり、いつもと違う道を通ったら素敵なお店を見つけたりと、何気ない行動やちょっとした出会いが思わぬところで繋がることがある。うっかり発した一言が、大きな事態を招くこともあるだろう。筆者がこの本を手にしたのも、1つの縁だ。あの時こうしたから、もしくはしなかったから、こうなった。すべて は、これの繰り返しなのだ。
縁について思いを巡らせていると、改めてその大きさに気付く。また、作中で、玉藻の式神・あずきが「人はよく縁を見落として損をしているらしいよ」とも話している。縁は目に見えるわけではないので、何がどう繋がっていくのかすべて を予測することは不可能。だからつい、日々を疎かにしがちだ。でも、それでも確実に、人は縁に影響され、影響を与えながら生きている。
本書『幽遊菓庵 春寿堂の怪奇帳』を読んで縁の大切さを感じ、いつもよりちょっとだけ意識してみると、思わぬ縁と繋がるかもしれない。そしてそんなことを考えながら周りを見渡すと、何気ない日常も生き生きしてくる。せっかくなら、出会いや縁を大事にして、少しでも多くの縁に気付き、繋がっていく感覚を楽しみたいものだ。
文=月乃雫