2人に1人がリピーター!20年で来館者数1000万人!箱根のアノ美術館の驚異的人気の秘密とは?
公開日:2016/11/25
箱根──国内でも上位の人気観光地のひとつであり、近場はもとより、全国から温泉を求めて旅人がやってくる。都会から離れ、落ち着く環境だからなのか、美術館も多く点在する。そのなかのひとつ、ヴェネチアングラスの美術館が静かに人気を博しているらしい。
『愛の言葉 箱根ガラスの森美術館のひみつ』(岩田正崔/世界文化社)は、箱根ガラスの森美術館の紹介にとどまらず、館長でもある著者の目線から見た、箱根の自然との関係、経営側からの視点など、多方面から美術館のあり方を考えた一冊だ。何やらお堅いビジネス本を想像するかもしれないが、誤解しないでほしい。本書は、美術館やスタッフ、そしてゲストに対する“愛”を表す、著者の素直な文章で満ちている。読み進めると、著者のおもてなしへの姿勢や努力が垣間見え、次第に人気の秘密が理解できる。
ヴェネチアングラスは、15~16世紀のルネサンス期に発展したガラスの工芸品だ。貴族には、食器に使用できることがステイタスになったそうだ。そのグラスが作られた街・ヴェネチアはどんな街なのか。著者がその魅力をこう記す。
ヴェネチアの街は一つのお伽の国です。私たちの住んでいる世界とは違った別次元の都市であり、街であり、ロマンチックな共和国という気がします。
中世の街並みがそこに厳然とそのまま残っていて、いうなれば街全体が一つの劇場です。私たちはヴェネチアを旅することによってその舞台の中に入っていきます。街に入った人はタイムスリップして、あたかも中世の貴族や貴婦人になった気分になり、芝居の主人公になります。そう錯覚してしまうほど、旅人を酔わせてくれる街なのです。
そんなヴェネチアの雰囲気を美術館の敷地すべて のコンセプトにしているのが、箱根ガラスの森美術館であり、その目指す姿はこう記されている。
私が目指す美術館とは、本物の美に囲まれ、ロマンチックな気配に満ちた美術館です。ガラスの職人たちが情熱を傾けて生み出した美と対峙することで自然と力が湧き、心が清々しさに満ち、周りの風景や人、すべてのものが愛おしくなる。そして自然と優しさやほほ笑ましい感情が溢れ、ふと愛の言葉をつぶやきたくなるような美術館です。
この美術館を包む温かな愛のサイクルこそ、人を惹きつけ、リピーター率50%、開館20年で累計来館者数1000万人という、驚異の集客力の秘密なのかもしれない。
著者は大手百貨店入社後に、学芸員資格を取得。百貨店の企画展や美術展を数多く手掛けた経歴があり、1996年の開館以来、美術館のオーナーから運営を任されてきた。前職の流通サービス業で培った手腕や経験も、美術館の成功に繋がっているようだ。
また、本書の構成は、見開きをめくるたび、文章と写真が交互に現れる。写真は、箱根ガラスの森の美術館の工芸品や室内、周囲の自然などがすべて カラーで惜しみなく盛り込まれ、さながら“紙の上の美術館”のようで楽しい。きっと、あなたも箱根のヴェネチアの美に触れたくなるに違いない。
文=小林みさえ