旅、家族、生きること…「日常の奇跡」を描いた『うさぎのまんが』に吉本ばななも絶賛!人気イラストレーター・MARUU初コミックエッセイ!

マンガ

更新日:2016/11/24


『うさぎのまんが』(MARUU/祥伝社)

 何気ない日常の中で、世界が突如強烈な色彩を放つ瞬間がある。たわいのない会話、ありきたりな食事、何でもないことにも思える体験が、時間軸の枠を超えて、心を捉えて離さない。どうしてだか、周りがいつもよりもまぶしく輝いてみえる。そんな人生の瞬間を切り取っては、描き出したあまりにも美しいコミックエッセイがある。

 『うさぎのまんが』(祥伝社)は、人気イラストレーターMARUU氏の初のコミックエッセイ。MARUU氏は、『象の草子』(堀江敏幸)、『鳥たち』(よしもとばなな)などの装画をはじめ、書籍、雑誌などの挿画で、繊細で幻想的な絵を描いているが、この本では、作者がうさぎに成り代わり、ゆるいタッチで人生のおかしみをすくいあげている。

 MARUU氏が遠方の友人宅へ遊びにいったとき のこと、仕事があるため、一泊したらすぐ帰るはずだったが、ふと、仕事の時間よりも友人たちと朝食のパンを食べながらニコニコしていることの方が大切で奇跡みたいなことだと感じた。MARUUは「たぶん描きたいのは、そんなようなことです」と語り、ふとした幸せ、奇跡的な瞬間を描いてみせる。

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 自分が何を好み、何を嫌うかを知ったような気がする貧乏旅、失踪した兄との食事の記憶、 想像と違っていたネコ・ライフ…。どうしてだろう。MARUU氏がこの本で描く「人生で二度は味わえない瞬間」は、キラキラと輝いているが、どこか切ない。たとえば、他の漫画家のアシスタントだったMARUU氏と中学時代からの友人かおちゃんとタイやバンコクへ行った貧乏旅で 、最初に着いたサムイ島での食事は美味しくないし、宿では真夜中中、隣の民家から爆音でカラオケの音が響き渡ってろくに眠れない。「楽しくはない」と言いながら、2人は長い旅路を進んでいく。失踪した兄と再会し、日本人向けにアレンジされていない外国人のレストランへ食事に行ったときの話では、兄は昔のことを語り、自分はどこにいても異分子だと思ってきたから、「誰しもがひとしく異邦人である空間が居心地良い」と語る。明るい色彩で描かれているのにもかかわらず 、彼女の世界には、いつもどこかに哀しみがあるようにすら感じてしまう。人生は楽しいことばかりではない。だけれども、こんなにも美しく、心を揺り動かしてしまう瞬間というものが存在するのだ。

 作家・吉本ばなな氏は、本書の巻末に寄せたエッセイ「セクシーなうさぎ」のなかでMARUU氏自身を「薄暗くメランコリックなセクシーさ」があると称している。

「MARUUさんの作品とか写真とか文章は、どれも彼女だけの強い力を持つ才能がさく裂しているのだけれど、その根底に漂う繊細さと冷静な観察眼がどれだけ彼女を救ったりあるいは傷つけたりしてきたんだろうと、よく思う」

「ただ哀しいだけでは作品は生まれてこない。その中でMARUUさんを力づける瞬間、美しさが哀しみを上回るきらっとした何かを彼女が捉えたとき、彼女の世界に祝福の原色が加わる」

 二度とは繰り返すことのない時のなかで、私たちはいろんな人とすれ違い、別れながら暮らしている。そんななかで、キラリと光る奇跡的な瞬間は、突然訪れる。そんな人生の機微をMARUU氏は時に繊細に時にゆるく描き出していく。絵の美しさだけではない。その観察眼に思わずハッとさせられるに違いないコミックエッセイだ。

文=アサトーミナミ