清水富美加「高校時代はやさぐれて、自意識の殻が厚くなってた(笑)」
更新日:2016/12/13
「とあるライブに行ったとき、アーティストの方が“差し入れのお礼に”と、くださったのが『てんとろり』。“私に合うと思った”とおっしゃってくださったんですが、自分ではどのあたりでそう感じていただけたのかわかりません。読んだとき、すでにこのエッセイは書き終えたあとでしたけれど、こんなふうにたくさんの言葉で表現できたらどんなにいいだろうって思いました。歌集なので、文字は大きいし、文章量も多くないのに、想像力をフル稼働させないと情景が浮かばないくらい比喩がきいていて、一首一首、読み込むのにとても時間がかかっちゃう。だけど、その想像を働かせる時間がとてもおもしろくて。感性が死にかけてると感じたときには、とくに読み返すようにしています。そのときどきで感じ方も違うはずだから、今日はどんな気持ちになるだろうという期待も楽しいです
初のフォトエッセイ『ふみかふみ』では、清水さんの繊細で柔軟な感受性が遺憾なく発揮されている。成人式で再会した同級生の変化、誰かとすれ違ったときの一瞬の気遣いや、なんとなく気分が上向きにならないときの心持ち。気を抜けば、記憶の端にもかからず過ぎ去ってしまうような些細な状況でも感じた気持ちを、清水さんは忘れない。
「中学生のころまでは、あんまり深くものを考えるタイプじゃなかった。だけどこの仕事を始めて、芸能コースのある高校に進学することが決まり、当たり前のように続いていくと思っていた日常が変わってしまうことに気がついたんです。大学付属の中学に通っていたので、何事もなければみんな一緒に高校へ進学できるはずだったんですが、私だけ、ちがう場所に行かなくちゃいけない。みんながわくわくしながら話している“来年”に、私だけいない。そうしたら、体育祭や文化祭はもちろん、登下校の道や放課後の教室などの、なんてことない日常までが惜しくなっちゃって。そのすべてを決して忘れるまい、感じるものひとつこぼすまいと刻みつけるように残りの時間を過ごしているうちに、あれこれ考えるようになりました」
本当はみんなと同じ高校に行くはずだったのに。その名残惜しさが、高校時代の清水さんをやや内向きにさせた。
「やさぐれてました(笑)。ネガティブな気分のときって、何かにつけ『どうせ』と否定する癖がついちゃうんですよね。昔はもっと、やりたいことはのびのびやって、人の目も気にせず楽しんでいたはずなのに、いつのまにか自意識の殻にこもるようになっていた。そうすると今度はどんどん傷つきやすくなったり、イライラしやすくなったりして、自分でもめんどくさいなあって思います。
だから今は、いいことをしたら自分を褒めてあげたいし、落ち込んだときはその気持ちも大事にしてあげたい。いろんなことをぐるぐる考えるけど、それでも今の自分が楽しめるものを私は探したいです。その結果、しょうもない、どうでもいいものに辿りついたりもするけど、それでいいんじゃないかなって。そんなことをつらつら、思いつくままに書いているので、もし今、高校時代の私みたいにつまんねえなって、やさぐれている人がいたら、ぜひ読んでみてほしいなと思います」
(取材・文=立花もも 写真=冨永智子)
しみず・ふみか●1994年、東京都生まれ。2015年、NHK連続テレビ小説『まれ』にてヒロインの同級生役で注目を浴びる。ほか出演作にドラマ『世界一難しい恋』、映画『HK/変態仮面』、舞台『才原警部の終わらない明日』など多数。現在、ドラマ『家政夫のミタゾノ』に出演中。17年、映画『暗黒女子』『東京喰種トーキョーグール』に出演予定。
ヘアメイク=牧田健史 スタイリング=武久真理江 衣装協力=ニット4万3000円、スカート3万6000円(ともに HISUI/ZEROZEROESUESU Inc.) ※すべて税別価格
〈さよならのこだまが消えてしまうころあなたのなかを落ちる海鳥〉。2006年、デビュー作となる歌集『ひとさらい』を刊行した新人歌人・笹井宏之は、その1年後、26歳の若さで急逝した。光や風、においなど、五感のすべてを短い言葉につめこみ、きらめきとともに表現した彼の遺作を収録した第二歌集。
『清水富美加ファーストフォトエッセイ ふみかふみ』
撮影/佐内正史 幻冬舎 1500円(税別)12月8日発売予定
〈時は、男の子を大人にしたみたいです。時は、私を子供にしたみたいです。〉同窓会の帰り道、ふと感じた切なさと遠くなった思い出。現場で毎日飲んだチョコレートコーヒーからの発見。仕事や日々の生活でうまれる、嬉しい気持ちや戸惑いの気持ち。20歳の清水富美加が素直な想いを、写真とともに挟み込んだエッセイ集。