イランで食べた「ヒツジの脳みそサンドイッチ」、その味は!? 世界珍肉旅行エッセイが書籍化!

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/13

『世界のへんな肉』(白石あづさ/新潮社)

 最近、「ジビエ」なんて言葉も耳にするようになった日本。ジビエとは、狩猟で得た野生鳥獣の食肉を意味する言葉で、ジビエ料理はそれをメイン食材として使用したもの。日本で食べられるのは主に鹿、イノシシ程度だろう。それでも、口にするのを尻込みしてしまう方も多いのではないだろうか。

 だが、世界には信じられないような動物の肉を食べる国も存在する。『世界のへんな肉』(白石あづさ/新潮社)は、世界100以上の地域を訪ねた著者が、動物たちとの出会いと、その様々な「味」を綴る一風変わったアニマル旅行記である。

 20代のころ、「何のしがらみも目的も締め切りもなく一生に一度くらい心ゆくまで、プラプラしたかった」と世界一周旅行を始めた著者の白石あづささん。「珍しい世界のアニマルを食べつくしてやるぜ!!」と肉食女子さながらに旅立ったわけではないのだが、旅の先々では当然のように「食べ物」と認識される動物たちがおり、「もしかしたら、すごくおいしいのかも?」と興味を持つようになったのだとか。

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 場合によっては「好意を断れなかった」という理由から、恐る恐る口にした食べ物もある。その一つがイランのサンドイッチ屋で売られていた「サンドビーチェマーグズ」。これはなんと「ヒツジの脳みそ」がコッペパンに挟まれたもの。

 白石さんはこの時、自分を自宅に泊めてくれた親切なイランのファミリーと共にサンドイッチ屋に訪れており、また店員からは「ジャパニーズ? なら、サービス!」と(頼んではいないが)「脳みそを大盛り」にしてもらったのだ。

「食べたくない」とは口に出せない雰囲気の中、白石さんは心を決める。ヒツジの脳みその見た目は黄色い白子。色はターメリックで味付けがされているからのようだ。毛虫みたいに気持ち悪い味だったらどうしよう思いつつも、パクリと一口。

「なんだ、うまいではないか!」

 食感は絹豆腐のようで、味はカレー味の白子。コッペパンのほんのりした甘みとも意外にマッチしたらしい。

 中米のエルサルバドルで食べた「イグアナのスパイス炒め」も、そのゴツイ見た目に反しておいしかったという。その地域では野良犬……ではなく、野良イグアナが街を歩いており、野外食堂で食事をしていると、イグアナたちがエサを求めてやってくることもあるそうだ。

 そんなイグアナが食べられるということで、白石さんは地元の人でにぎわう定食屋へ。「イグアナのスパイス炒め」の味は、「鶏肉の食感に近いけれど、味は脂の乗った白身魚のよう」「あっさりしているけれど旨みがある」そうだ。

 聞けば、イグアナは現地で「樹上のニワトリ」とも呼ばれているのだとか。ちなみに、お店で提供していたイグアナは野良ではなく、牧場から出荷された食材だったので、野良の味とは違うのかもしれないが、イグアナは「和食にも合う」と感じたそうだ。

 しかし、おいしいと思っていたものが、予想外に不味かったパターンもある。それはスウェーデンで食べた「雷鳥ローストのブルーベリーソース」。

 大学生のころ、日本の山小屋でアルバイトをしていたという白石さん。山の上ということで肉々しい食材が乏しい中、時折現れる山のアイドル、雷鳥は実はとてもおいしい!? というウワサがあったそうだ(※日本において、雷鳥は食べてはいけない)。

 数年後、オーロラが見える北極圏に近い田舎街のビストロで、雷鳥を食べる機会が。いざ口にしてみる。しかし「すごく硬い」「噛み締めてみたら、魚のハラワタのような苦くて渋い味」だったという。

 本書は動物とその肉の味を中心に描かれているエッセイだが、その肉を食べるに至った現地の人々との交流も綴られている。旅先でのほっこり話(イランの女子大生と恋バナ)、不思議な体験(バリで遭遇した幽霊?)、驚いた習慣(ケニアのサバンナ周辺では、そこに食べ物があれば他人のごはんだろうと勝手に食べてもいい)などのエピソードは、世界の広さを感じさせてくれて、ノンフィクションの読み物として抜群に面白かった。

 お手軽に世界一周旅行の「気分」を「珍肉」から味わえる本書。「ジビエ」を食べつつ、読んでみてはいかがだろうか?

文=雨野裾