子どもを生まないことは一生の不覚なの? 現代を生きる女たちに捧ぐ『女の生き様は顔に出る』

恋愛・結婚

更新日:2016/12/19

『女子の生き様は顔に出る』(河崎環/プレジデント社)

 書店の女性エッセイコーナーを見ると、「男が放っておかない女になる極意」だとか、「キラキラ輝く私になるための◯個のルール」みたいな、キラキラ感満載の本が山ほどある。あくまで筆者の主観ではあるが、それらの本のほとんどに「女であることをめいっぱい楽しもう!」的なことが書かれている。「賢く」「しなやかに」「美しく」という三大キーワードが多様されているのが特徴だ。

 女性である以上、そうやって生きるほうがラクだしオトクだよねっ☆ ……と、思い込んでいたところに、待ったをかける人が登場した。エッセイストの河崎環である。彼女がプレジデントオンラインで連載していたコラムが、ついに書籍化されたのだ。タイトルは『女子の生き様は顔に出る』(プレジデント社)。

 キラキラ系女性エッセイとは明らかに一線を画したこの本では、恋愛、結婚、出産、仕事、子育て、男との関係などなど、あらゆる側面から女を分析する。しかし、甘えた精神論は一切ない。「パワーストーンで悪い気を浄化して、いい恋を呼びこむ☆」とか言ってたら、「いや、そういうスピリチュアルなこといいから、もっと真剣に考えたほうがいいよ」とマジレスされた気分になる一冊だ(個人の感想です)。

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 名門進学校を経て、慶應義塾大学を卒業し、海外に遊学までしているような相当なインテリジェンスを持っている著者が、女という生き物を解剖したとき、一体何が出てくるのか? 予想以上にグサグサ突き刺さる内容に、ページをめくる手が止まらなかった。

現代の自由な女代表・吉田羊

 最初の章では、ここ数年で起きた時事ネタを絡めながら「恋愛、結婚、出産」について語られている。

 例えば、イケメンアイドルのお持ち帰りをスクープされた女優の吉田羊。著者は、20歳も下のイケメン俳優を捕まえた40歳の吉田羊を、「現代の自由な力を持つ女」だと絶賛する。

日本のアラフォーなる年代の女性に、これほどの生き方の振れ幅が許容された時代、社会的承認が与えられた時代が、これまであっただろうか?

 確かに、若い女の子と遊んでスキャンダルになる中年俳優より、よっぽどインパクトがある。しかし、著者に言わせると、ここで重要なのは、吉田羊が「技術のおかげで肉体の若さを維持し、情報のおかげで感性の若さを維持し、自分の稼ぎで男におごり、自分の部屋へ連れ帰」ったという事実。すべてのことが本人の主導のもとに行われている。確かに、自分がアラフォーになったとき、20歳年下の男の子を連れ帰れるくらいの自信を持てていたら最高だなと思う。実際連れ帰るかどうかは別として。

子ども生まない選択が批判されるのはナゼ?

 女の価値観を、四方八方から斬りつける本書だが、個人的に一番ザックリいっちゃっているのが“出産”についてだと思う。タレントの岡本夏生さんがかつて「子どもを生まなかったことが一生の不覚」という発言をして話題になったことを引き合いに、「出産にリミットがある事実」と、「個人の生き方」という2つの側面から分析する。

 女性がたびたび葛藤する
「なぜ世間は当たり前に女性が子ども育てると思っているのか?」
「子どもを生まないという選択を、批判されるのはなぜなのか?」
「とりあえず生んでから考えればいいって言うけど、それだとキャリアは止まるよね?」
などといった疑問を、著者が一つ一つ紐解いてくれる。

 また、世の中には、出産したいと思ったとき、すでにリミットが過ぎていたという女性もいれば、不妊治療の甲斐なく子どもを授かることができなかった女性もいる。若い女性たちが不安に思いながらも目を背けがちな現実にも、臆すことなく向き合い、考えさせてくれるのだ。

女性はマルチタスクであるべき?

 女性はマルチタスクが得意なはず、という固定概念が定着しすぎてて、気づかなかったけど、全部いっぺんにできる人なんてまずいない。だったら、やりたいことを一つに絞ってやったっていいんだよと著者は言う。

「女性はマルチタスク脳なんだから、あれもこれも上手に賢く切り盛りする方法論を考えましょう!」なんて話には、「古いわ。ケッ」という拒否反応が出始め、女性があれもこれも選べる時代になったからこそ、むしろシングルタスクの姿勢でそれぞれに真正面から取り組んで納得のいく作業をしたいと考える若い女性も、声を上げ始めた

 周りを見渡しても、いくつものことを同時進行に器用にこなしている女性はたくさんいる。その姿に憧れたりもしたけど、本書を読むと、そもそも同時進行する必要ってあるの? という疑問が湧いてくる。「すべてのことを上手にこなしちゃうワタシすごい☆」というキラキラした価値観を、簡単にぶち壊してくれた。

イイ女ぶって、がんじがらめになるのはナンセンス

 この本を読むと、いかに自分が女としてぼんやり生きてきたかを思い知らされる。「女だから、舐めたこと言っても許されるんだよ」と言う嫌味を言われようものなら、「へぇ、女に生まれてトクしたなぁ」なんて思っていた筆者の目は完全に覚めた。

 著者は、現代の女性の生き様を「正面からぶつからずに相手を立て、気持ちよくさせて、その隙に自分の要求をすべり込ませ」ていると表現する。確かに賢いけど、その一方で「闘うことを回避した臆病者のやり方」でもあると警告する。

 むやみに闘うのもどうかと思うけど、「賢く」「しなやかに」「美しく」を一旦忘れて、女としての生き方を見直したいと思う。

文=マルイカナコ(清談社)