今は亡き祖母の味…故郷を捨てたことへの後悔から著者が探し歩いた日本全国に息づく「まじない食」とは?
公開日:2016/12/11
日本には、四季折々、古くから伝わる行事食がたくさんある。冬の歳時記として、冬至のかぼちゃや、お正月のおせちなどが真っ先に思い浮かぶだろう。『日本まじない食図鑑 お守りを食べ、縁起を味わう』(吉野りり花/青弓社)は、全国的には知られていないが、今も脈々と受け継がれている地方独特の行事食を中心に、著者が訪ね歩いた旅の記録とエッセイだ。
まず、題名にある“まじない食”とは何か。著者の定義はこうだ。
神事、仏事、伝承行事のなかで何かの願いを託してお供えされる食材、食べられる料理を〈まじない食〉と定義
著者の吉野りり花氏は「日本文化そのものを体感できる場所」を求め、巫女のアルバイトを経験。祭祀や祈りにまつわる食べ物に興味をもったのが始まりで、現在は食文化のコラムも手掛ける旅エッセイストである。
本書は、東北から九州までの様々な地域に伝わる一風変わった伝統行事と、まじない食を章ごとに取り上げている。各地のまじない食の裏側には、厄除け、成長、豊作など、必ず、土地に暮らす人々の“祈り”が隠れている。食に込められた人々の思いを、民俗学の視点も含め、綴っていくのだが、著者自身の様々な思いも明らかになっていく。例えば、香川県丸亀市の、男の子の健やかな成長を祈る“”の章では、1児の母でもある著者の子どもへの思いが率直に記されている。もうひとつは、若い頃の自分への後悔。これは著者の言葉で紹介したい。
高校を卒業し故郷から上京するときには「東京にはなんでもある」と思っていた。刺激的なものも最新のものも、本も音楽も映画も、田舎にはないものがたくさんある。それだけが文化だと勘違いして、私はふるさとを切り捨ててしまった。(中略)祖母も亡くなり、祖母が作るあくまき(※九州南部の郷土菓子)ももう食べられなくなってしまった。いつまでもあると思っていたのに、なくなってしまってやっと気づく。ありふれた日常の風景や食がこんなにも懐かしく尊いものだったなんて──。
心の奥底で、著者と同じことを感じたことがある人もいるのではないだろうか。著者のこの思いが下地となって、時代の変化とともに、消えつつある伝統食や民俗行事を探る旅へと突き動かしているのかもしれない。
また、旅の記録として、地元の人に「東京さん」と呼ばれたり、まじない食や郷土食をいただいたりと、実際にその伝統を支えている人々との交流が繰り広げられている。方言が混じり、生き生きとしたやりとりに、なんともほっこりしてしまう。カラー写真で、まじない食や伝統行事の数々が紹介されるだけではなく、旅の途中で見つけた「朝ラー(メン)」やB級グルメも時には取り上げ、読者の旅情をかきたてる。さらに巻末資料には「まだまだある全国の食べるお守り・まじない食」があり、まじない食のおかわり付きだ。
あなたの地方や故郷の「まじない食」はなんだろう? この冬、地元を調べてみるのも面白い。
文=小林みさえ