座りすぎの現代人に警告! 座りっぱなしが招く弊害

健康・美容

公開日:2016/12/14

『GET UP! 座りっぱなしが死を招く』(ジェイムズ・A・レヴィン:著、鈴木素子:訳/KADOKAWA)

 日本には、肥満の原因を運動不足のせいだと考える人はいても、椅子の座りすぎのせいだと考える人はまだあまりいないだろう。しかし、アメリカでは今、オフィスから椅子を撤去する企業が出るほど、椅子の座りすぎが大きな話題となっている。アメリカの研究病院・メイヨークリニックの研究員が「座りっぱなしだと、座った時間の2倍の寿命が縮まる」という内容の論文を発表したためだ。そこで、その論文を書いた研究員の著書『GET UP! 座りっぱなしが死を招く』(ジェイムズ・A・レヴィン:著、鈴木素子:訳/KADOKAWA)を取り上げる。

アメリカ人が椅子に座って過ごす時間は13時間

 アメリカでは、肥満が大きな社会問題になっている。この本の著者ジェイムズ・A・レヴィンは、アメリカの研究病院メイヨークリニックで、肥満と健康増進について研究を行っている研究員だ。太るメカニズムを探るために、同じカロリーを摂取しても太る人と太らない人がいることに注目した。そして見つけた違いは活動の仕方、特に座っている時間の長さだった。アメリカ人でオフィスワークをしている人は、長い人だと1日のうち13時間を椅子に座って過ごす。寝ている時間を8時間とすると、起きている時間のうち、座っている以外の時間は約3時間しかないのだから、運動不足以前の話だ。ちなみに、日本人の座りっぱなし時間は平均で7~8時間。その差がアメリカ人と日本人の肥満度の差になっているのだとしたら、著者が座りっぱなしの弊害を「椅子の呪い」と表現するのもうなずける。

太るか太らないかのカギを握るNEATスイッチ

 彼らの研究チームは、太る人と太らない人の違いを調べる際、NEAT(Neo-Exercise Activity Thermogenesis=非運動性活動熱産生)に注目して大食い実験を行った。16人の被験者にクリニックで10週間同じ食事をさせたうえで、普段通りの生活を送って太り方に差が出るかを調べたのだ。最初の2週間はそれまでの体重を増減なく維持できるギリギリの摂取カロリーに抑え、その後の8週間は、毎日1000カロリーずつ余分になるような食事内容にした。被験者には食事以外は普段通りの生活をしてもらうため、ジム通いの習慣のある人を除外して実験を行った。実験終了までの余剰カロリーはトータルで6万5000カロリーにも及ぶ。すると、実験の結果、余剰カロリーすべてを体脂肪として蓄積した人がほとんどだったが、中には、体脂肪が増えなかった人が数人いた。その違いの原因を調べたところ、食事の後すぐに椅子に座ったか、座らずに動き回っていたかの違いに行き着いたのだ。食後すぐに座るとNEATスイッチが正常に入らず、余分に摂ったカロリーが消費されないからだ。

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椅子に支配される現代人

 かつて人間は、一日中椅子に座り続けて生活をするようなことはなかった。立って動き回る生活をしていて、疲れたときだけ椅子に座るという生活をしていたはずだ。それがいつの間にか椅子に座る時間の方が長くなり、近年は椅子に支配されるかのような生活になってしまっている。今では椅子に座り続けて疲れてくると、立ち上がって少し歩き回るという生活をしている人も少なくない。椅子に座りっぱなしの生活は、肥満の原因になるだけでなく、生活習慣病や心の病など全身に様々な悪影響を与えていると、著者はこの本の中で指摘している。

 実は、この本の後半部分では、著者たちのグループがアメリカで行っているオフィス改革の話がメインになっている。椅子を置かないオフィスに作り変えることで、社員たちの肥満や生活習慣病が激減したうえに、精神的なストレスも軽減され、生産性が向上したというのだから驚きだ。とはいえ、我々が住んでいる日本では、まだまだオフィス改革が行われる兆しもない。自分の生活を振り返ってみて、座っている時間が長いと感じたなら、この機会にできるだけ立って歩き回るように心がけた方がよさそうだ。

文=大石みずき