魔王化したヤクザをチンピラ勇者とJKが討つ!? アウトローすぎる主人公に酔いしれろ!

マンガ

公開日:2016/12/24

『勇者のクズ』(ロケット商会:著、草河 遊也:イラスト/KADOKAWA)

 ある日突然異世界に召喚された主人公が、数々の偉業を成し遂げ、やがて勇者として名を馳せていく。いわゆる「異世界もの」と呼ばれる作品群が、現在あらゆるライトノベルレーベルで人気を博している。メディアミックスも多数展開され、いまや「異世界もの」はライトノベルの王道となったが、一方で「勇者」という存在を改めて定義しようと試みる新たな潮流も生まれつつある。

 小説投稿サイト「カクヨム」で行われた「第1回カクヨムWeb小説コンテスト」にて大賞を受賞、書籍化となった『勇者のクズ』もそんな作品の一つ。著者のロケット商会氏は本作がデビュー作となるが、その実力は審査員の折紙つき。『魔術士オーフェン』で有名な草河遊也氏とタッグを組み、「もし現代社会に勇者と魔王が存在したら」という斬新な設定で展開される物語は、勇者の在り方を私たちに問いかける作品に仕上がっている。

 『勇者のクズ』の舞台は、違法手術の末に「魔王」と化したヤクザが蔓延る現代日本。彼らを討つのは職業「勇者」。政府から発行される勇者免許によって「人殺し」の許可を得た者たちが、《E3》と呼ばれる身体強化薬によって高ぶる攻撃衝動と異能の力を発現させ、「魔王」を殺して日々の収入を得る。

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 本作の主人公ヤシロは、勇者を「人を殺してメシを食う最低のクズ」と称しつつ、自らも勇者稼業に身を置くチンピラ。魔王を殺して金を稼いでは、知人のエド・サイラスが経営するバー《グーニーズ》で元ヤクザの殺し屋《ソルト》ジョー、魔王の断末魔を録音するのが趣味の《音楽屋》イシノオといった同業の友人とテーブルを囲み、酒を片手に罵りあう日々を送っていた。

 ところが、彼の日常は勇者志望の女子高生をお金目当てに助けてしまったことで一変。成績不振で退学一歩手前の彼女たちに懇願され、ヤシロは「勇者業の先生」として女子高生3人の家庭教師を引き受けることになってしまう。誰よりも勇者に強い憧れを持つが、人の話を全く聞かない城ヶ峰亜希。高い戦闘能力を持ちながらも頭脳が残念な印堂雪音。真面目で面倒見も良いがヤンキーかつヘタレなセーラ・カシワギ・ペンドラゴン。

 アカデミーと呼ばれる勇者養成機関で落ちこぼれ扱いされていた彼女たちだったが、学校とは一味違うヤシロの指導のもとで実力を着実に伸ばしていく。ヤシロもまた、自分が「クズ」と罵る「勇者」を懸命に目指す彼女たちとの関わりのなかで、捨て去ったはずの「理想の勇者」に思いを募らせていく。

 そんなある日、ヤシロは《音楽屋》イシノオが失踪したことを知る。教育も兼ねて生徒と共に手がかりを追う彼は、やがて《E3》をめぐる大きな陰謀に巻き込まれていく。失踪した友人のため、激化する戦いに身を投じるヤシロ。彼が勇者稼業で苦境に陥ったとき、いつも脳裏に浮かべるのは得難い友人と過ごす《グーニーズ》のひとときだった。友として、勇者として、やるべきことは何か。つまびらかにされていくヤシロの想いに、心打たれずにはいられない。

 チンピラじみた言動が目立つ本作の「勇者」ヤシロ。英雄譚に謳われるような勇者には程遠く、何か特別な能力があるわけでもない。それでも彼は、助けを求める生徒に手を差し伸べ、友人のために命がけで戦う。たとえ理想の勇者にはなれなくても、忘れてはいけない矜持があると、ヤシロの生き方が教えてくれる。いつの間にかなくしてしまった夢や理想も、この作品を手にとれば思い出せるかもしれない。本をひらけば、ビールとピザとカードゲームを楽しんでいる彼らが、きっとあなたを出迎えてくれるはずだ。

文=ケンジヨースケ