黒木華「そこにいるだけで香り立つ何かを、手に入れられたら」
公開日:2017/1/6
「映像はまだ緊張するんですが、舞台に立つ時は基本的にあまり緊張しないんです」
舞台でデビューした女優だと知らない人は、ぜひ舞台の黒木華を観てほしい。抜群のせりふ術と内側から発光するような存在感で、劇場を支配してしまう。
舞台『お勢登場』の原作は、江戸川乱歩の『二銭銅貨』『二癈人』『D坂の殺人事件』『お勢登場』『押絵と旅する男』『木馬は廻る』『赤い部屋』『一人二役』の8編。タイトルに「登場」とある通り、乱歩はお勢を明智小五郎の好敵手となるヒロインとしてシリーズ化するつもりだったらしい。
「乱歩といえば、妖しくて耽美で艶やかで怖い感じ。『二銭銅貨』『D坂の殺人事件』『押絵と旅する男』は読んでいたけれど『お勢登場』は読んだことがありませんでした。台本を読むと、お勢がどんどん旅をしていく話になっている。でも、こういう女なんだろうと決めていかないほうが良くなる気がしたんです。悪意があるとわかれば人間的なんだけれど、お勢はそれがあるのかないのか見えないから怖い。色気ということに関しては今まで苦手意識があったのですが、お勢をやるからにはそこにいるだけで香り立つ何かを、自分でも手に入れられたらいいなと思います」
10代の頃は図書室に入り浸りだったというこの人に、オールタイムベストな一冊を訊いたら、ちょっと意外な答えが返ってきた。
「村上龍の『コインロッカー・ベイビーズ』。初めて読んだのは中学生の時で、その年頃の女の子が読むには結構エロティックで、でも生命力があって、主人公たちの破滅的な生き方にひきずりこまれました。思春期の頃って生きていくことが嫌になるみたいな時ってあるじゃないですか。だからちょっと陰のあるもの、死の匂いがするものに惹かれるんだと思います」
2017年の抱負は「大人になりたいですね、早く」と。
「今の自分は出会った人たちがつくってくれたものだし、何事も経験してみなければ、わからない。出会いと経験を重ねて、一歩ずつでも地道に変わっていけたらと思っています」
(取材・文=瀧 晴巳 写真=冨永智子)
黒木 華
くろき・はる●1990年、大阪府生まれ。2010年NODA・MAP番外公演『表に出ろいっ!』で、中村勘三郎と野田秀樹との3人芝居に大抜擢される。11年『東京オアシス』で映画デビュー。14年、映画『小さいおうち』でベルリン国際映画祭最優秀女優賞受賞。16年は舞台『書く女』、ドラマ『重版出来!』、映画『永い言い訳』などに出演。
ヘアメイク=新井克英(e.a.t…) スタイリング=井伊百合子
衣装協力=ジャケット 9万円(ジェフリー ビー スモール/ジャーナル スタンダード ラックス 表参道店 TEL03-6418-0900)、スカート 3万9000円(ニードルズ/ネペンテス TEL03-3400-7227)
大自然の中を裸で、走り、ジャンプし、時には落下する彼らは、生命力に溢れ、自由を体現して輝いている。若くして時代の寵児となったアメリカの写真家ライアン・マッギンレーの代表的な写真集。表紙の写真は、シガー・ロスのアルバム『Med Sud I Eyrum Vid Spilum Endalaust』のジャケットに使用された。
舞台『お勢登場』
原作/江戸川乱歩 作・演出/倉持 裕 出演/黒木 華、片桐はいり、水田航生、川口 覚、粕谷吉洋、千葉雅子、寺十 吾、梶原 善 2月10日(金)~2月26日(日) シアタートラム 福岡・大阪公演あり
●若く妖しい女・お勢の夫が長持ちの中で不審な死を遂げる。果たして犯人は……。『二銭銅貨』『D坂の殺人事件』『押絵と旅する男』など、江戸川乱歩の短編8本を再構成。個性派俳優たちが集結。シャッフルされた物語がパラレルワールドのように展開する迷宮世界が立ち上がる。
撮影=広川泰士