「結婚しても、しなくても。どっち行っても地獄ゆき!?」独身彼氏ナシのAさんと、既婚者1児の母のBさん。それぞれの不安、悩みって?
更新日:2016/12/28
大団円でエンディングを迎えたテレビドラマ『逃げ恥』(逃げるは恥だが役に立つ)の中で、石田ゆり子扮するアラフィフの百合が、若さを武器にする女子に向かって「自分に呪いをかけないで。そんな恐ろしい呪いからはさっさと逃げてしまいなさい」と言うシーンがあった。
この呪いとは「女性は結婚して子供を産むべき」「子供は○人持つべき」「○歳で××するとイタいおばちゃんになる」といったもので、目に見えないのにその人をガチガチに縛ってしまう、確かに恐ろしいものだ。
そして呪いのひとつに、「誰かと自分を比べてジャッジしてしまう」というものも含まれていると、個人的に思っている。子供の頃、親や先生などから「お姉ちゃんはできるのになぜあなたはダメなの?」とか「○○ちゃんは100点取ったのに……」とか言われて比べ続けられたことで、気が付いたら「彼女と比べると私なんか」と、自分から比較のドロ沼に飛び込んでしまっている人は驚くほど多い。
『Aさんの場合。』(やまもとりえ/祥伝社)に登場するAさんとBさんも、常に互いを意識して比べ合っている。
ともに30代で同じ会社で働くAさんは独身彼氏ナシで、人付き合いが苦手。一方のBさんは既婚者1児の母で、いつも輪の中心にいる。働き者のAさんは子供を保育園に迎えに行くため早上がりをするBさんに、「子どもいるひとは早く帰れていいわね」「結婚してる人がそんなにエラいわけ?」と不満たらたら。しかしBさんも「私だってもう少し会社にいたかったわよ」「子供さえいなきゃ」と、決して幸せいっぱいというわけでもない。「夕食いらない」連絡をメールひとつで済ます夫を待ちながら、「この人生で本当に良かったんだろうか」とつぶやくこともある。
2人はSNSや、クリスマスやお正月帰省などのイベントを挟んで、それぞれがそれぞれの立ち位置について思い悩む。というのも「これで老後も安心だわーって」と、Bさんを介護要員扱いする義母や「あなたの老後が心配で」「やっぱり 一人はツラいと思うの」とAさんの将来を心配する実母など、決して悪意からではない無神経な言葉が、刃のようにグサグサと2人に突き刺さってくるのだ。
結婚しても、しなくても。どっち行っても地獄ゆき!?
ページをめくるたびにだんだん、オビに書かれたこの言葉が読み手の心に溢れそうになる。
しかしこの話は、決してここで終わらない。Aさんに「君も早く結婚したら?」と言い放つ波平ハゲの“課長”は、それぞれの良い点や困った点を冷静に見抜いているし、おじさんのコネで入社した2人の後輩“あの子”は、噂話が大好きで仕事をしない主婦パートを、しばきたくて仕方がない。一見反目しているA&Bさんだけではなく、彼女らを時にイラつかせる「周りの人達」の思いや言葉もすくい上げ、「こうだからこの人はこう思う」が描かれているから、地獄に落とされる寸前でスッと浮上する。
そしてある時、Aさんは言ってることは正しくても物言いがきつい後輩“ミツアミ”を眺めながら、「自分が一番正しいと思っているのはきっと 間違ってる」と気づく。Bさんもふと、「人のせいにばかりして 自分で自分の人生を つまらなくしてた気がする」ことに気づく。いずれも大きな事件が起こったわけでも、大きなきっかけを誰かから与えられたわけでもない。生活する中で、ただ気づくのだ。
比べながら、互いを羨ましいとねたみながら、距離を詰め切れないままの2人は、それぞれに同じ年月を重ねながら失ったものと得たものがあることや、それぞれの幸せを自覚する。
きっとこの先もAさんは人と打ち解けるのが苦手だろうし、Bさんは夫や子供にイラッとさせられることだろう。日常は劇的になど変わらない。でも2人はもう、誰かと自分を比べて惨めに思うことは、おそらくないだろう。そう、「独身」や「結婚」が人を幸せにするわけでも不幸にするわけでもなければ、「呪い」は誰かに解いてもらうものでもないからだ。
呪いを解く鍵やら呪文やらは自分の中にしかないし、一度解けてもまた、違う呪いがやってくるかもしれない。それでも「気づく」ことでおそらく、前に進んでいける。
この本はこの世に存在するすべてのAさんとBさんにとっての、ある意味攻略本なのかもしれない。あなたがどちらかのタイプに該当するなら、ぜひお試しを。
文=玖保樹 鈴