死ぬまで働く一億総疲弊社会が到来。「収入が少ない」「貯蓄がない」「頼れる人がいない」の“3ない”の実態

社会

更新日:2016/12/28

『続・下流老人』(藤田孝典/朝日新聞出版)

 超少子高齢社会は日本人の老後の生き方を変えてしまった。余暇を楽しむどころか、老後の収入や蓄えがない人は、死ぬまで働く必要があるのだ。『続・下流老人』(藤田孝典/朝日新聞出版)は、『下流老人』の続編であり、「高齢期の労働と貧困」をテーマに一億総“疲弊”社会の到来を訴えている。

 本書の「下流老人」の定義は、年金や貯蓄が少なく、病気、事故、熟年離婚などを理由にやむを得なく貧困生活を強いられている高齢者だ。下流老人の最大の特徴は、「収入が少ない」「貯蓄がない」「頼れる人がいない」、“3ない”の状態にあることだという。

 読者は、ご自身が年金受給者になったとき、どれほど年金がもらえるかご存じだろうか。年金の受給額が年々減っていることは今やだれもが知っている。本書によると、2013年度末時点で、年金受給額のボリュームゾーン(最も人数が多い層)は6万~7万円だそうだ。その数、約460万人にのぼる。

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 総務省統計局の「家計調査年報」によると、世帯主が60歳以上の高齢者世帯のうち、貯金額が600万円未満しかない世帯の割合は、2003年が19.8%だったのに対し、2015年は25.3%と、12年間で5.5%上昇している。高齢者の貧困化が進んでいる根拠は数字となって表れている。

 少ない年金を補うために働くことができれば、切り崩して使えるだけの貯蓄があれば、生活を成り立たせることは可能だろう。しかしいつまで働けるかはわからない。何かがきっかけで自身の健康を失い、介護を受ける必要が起きた場合、蓄えが少なければ、一気に貧困へ転がり込んでしまう。

 もし下流老人になってしまったとき、誰に頼ればよいだろうか。まず思いつくのは子どもだ。しかし昨今では、非正規雇用やブラック企業が社会問題となっている。奨学金の返済に困り、首のまわらない若者も多い。若者も余裕がない、もしくは貧困に該当するケースが増えているのだ。

 さらに、うつ病などの精神疾患も増えている。2011年度の全国健康保険協会の調査報告によれば、傷病別で精神疾患が全体は占める割合は、26%を超えているそうだ。厚生労働省の「平成25年度国民生活基礎調査」によると、「うつ病やその他の心の病気」で通院している人の割合は、男性なら40~44歳、女性なら35~39歳が最も多い。どちらも働き盛りの年齢だ。

 このように子どもも問題を抱え、親を頼って家に居座るケースは少なくない。1つの家庭の中で、介護、うつ病、リストラ、ニートの子どもなど、複数の問題を抱える家庭が増えてきているという。

 さらに、高齢者ほど自身の貧困を隠したがると本書は指摘している。高齢者は特に生活保護に対し、「恥の意識」を強く持っているという。これは生活保護の制度面の問題も大きい。生活保護法には「扶養照会」が設けられており、ケースワーカーが子どもや親族に金銭面の援助をしてもらえないか問い合わせる作業のことだ。確かにこれでは「恥の意識」を感じるのも無理はない。

 本書では、より下流老人の危機と背景を伝えるため、実際に起きた5つのケースを紹介している。5人の高齢者の実例が載せられているのだ。あまりに生々しい人生の転落、やがて訪れる貧困生活、それでも生活保護を拒む高齢者たちが紹介されており、「これは他人事ではない」「私の将来かもしれない」と、私は読みながら暗い気持ちになった。

 ここ1~2年のニュースを振り返ると、以前に比べて「貧困」というワードが目につくようになった。ワーキングプア、シングルマザーと子どもの貧困、そして下流老人。「貧困」が現代の社会を象徴するワードになりつつある。貧困は社会問題であり、誰しも降りかかる可能性がある。

 世の中には、日本の様々な問題を訴える書籍が多く出回っている。その本を読み、知見を広げることは、自分自身の将来を救い、日本を変えることにつながると私は信じている。『続・下流老人』のような書籍がもっと世の中に出回ってほしいし、このような本こそベストセラーになってほしいと願う。

文=いのうえゆきひろ