あなたが余命を宣告されたらどうしますか? 「死を肯定する医者」と「生に賭ける医者」を描く本格派医療小説

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/12

『最後の医者は桜を見上げて君を想う』(二宮敦人/TOブックス)

 もし今、あなたが余命を宣告されたとしたら、どうするだろうか? できる限りの治療をして少しでも長く生きようとするか、死を受け入れて残り少ない命、「どう過ごすか」を大切にするか。その人の状況、年齢、考え方によって大きく変わってくるだろう。その選択に、正解はないのだ。

『最後の医者は桜を見上げて君を想う』(二宮敦人/TOブックス)は、「死を肯定する医者」と「生に賭ける医者」、二人の主人公が己の信念を熱く闘わせる、本格派医療小説だ。

 武蔵野七十字病院に勤務する桐子修司(きりこしゅうじ)は、「死神」と呼ばれる院内の問題児。若き医者である彼は、死を肯定する。もちろん本人の意志を尊重はするのだが、時と場合によっては「死を勧めている」かのようにとれる言動が問題視されている医者なのだ。

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「カルテ拝見しました。現状より良くなる可能性はほぼないと言ってよいです」

「余命は半年前後かと。あとはどこまで引き延ばすかですね」

 淡々と、患者本人。そして遺族に告げる桐子。

 一方、同じ病院に勤務する、桐子の学生時代の友人でもある福原雅和(ふくはらまさかず)は、若き天才外科医で、患者の命を救うことに執念を燃やす。

「諦めてはなりません」

「医者をやってると、奇跡を目の当たりにすることが実際にあるんです。奇跡は起こるんです。いや、起こしましょう」

 福原は最後まで生を諦めない。1パーセントでも治る見込みがあるのなら、とことん治療をすべきだという信念を強く持っている。

 本作は三章構成の短編連作なのだが、「生」と「死」をテーマに、医療の現場を舞台にしているので、読んでいるのがつらくなる時が度々あった。日常を生きていた(読者に近い)平凡な登場人物が余命を宣告され、「どうする?」という部分を描いているので当然なのだが、人が死ぬ。普段意識していない「命の終わり」をつきつけられる。だが、読んでいて悲しくなる一方で、つらさを上回る感動を与えてくれた。そして自分自身も必ず迎える「死」について「どう向き合うか」を考えさせてくれる一冊だった。

 と、ここまで小難しく書いたが、本作はとても読みやすく、読後感もよい。もしこれが「ノンフィクション」だったとしたら、「重たすぎて」読むことを躊躇してしまう可能性がある。だが小説である本作は、その「重たすぎ」がなく、内容は深くテーマは重厚なものを扱っているはずなのに、読者が敬遠してしまうような「不快さ」がないのだ。

 これは魅力的なキャラクターが登場していて、「いい意味で」フィクション感が増していることも一因だと思う。特にダブル主人公の桐子と福原、この二人、とにかく個性的。それぞれが全く違った意味で「かっこいい」。ぜひとも桐子が綾野剛、福原が福山雅治でドラマ化してくれないだろうか。二人が対峙するシーン、絶対にテレビ映えすると思うのだけれど……。

 売り上げが6万部を超えているという、話題の本作。魅力的なダブル主人公の医者と、「余命を宣告された患者」が織りなすドラマを、ぜひ味わってほしい。

文=雨野裾