生田斗真がトランスジェンダー役に挑戦する話題の映画!――孤独な少女が知る、世の中の「普通」と「普通じゃないこと」

映画

更新日:2017/6/4


『彼らが本気で編むときは、』(荻上直子:原作、百瀬しのぶ:ノベライズ、今日マチ子:絵/パルコ)

 普段、気に留めることはないけれど、マンションの隣室に住む顔も知らない隣人も、コンビニの店員も、今すれ違ったあの人も……もしかしたら、「傷ついている」のかもしれない。なにげない「日常」の中で、みんな、どこか「傷ついて」いるけれど、それでも笑って生きているのではないだろうか。

『彼らが本気で編むときは、』(荻上直子:原作、百瀬しのぶ:ノベライズ、今日マチ子:絵/パルコ)を読み終えた時、そんな風に感じて、胸が熱くなった。

 2月に公開が予定されている同名映画作品をノベライズ化した本作。育児に積極的ではない母親と二人暮らしの少女トモは、家庭の温かさを知らずに生きてきた。ある日、母親が「新しい恋人」を見つけて家を出て行ってしまう。以前にも同じような体験をした小学5年生のトモは、すっかり大人びていて、冷静に対応する。

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 書店に勤める叔父のマキオに助けを求め、彼の家でお世話になることに。だが、以前と異なっていることもあった。それは、マキオがリンコという女性と同居していたことだ。リンコは、トランスジェンダーの女性(男性の身体に生まれ、戸籍上の扱いも男性)。最初は戸惑うトモだったが、彼女との生活はトモが知らない「温かさ」に満ち溢れていた。

 そしてトモは知る。世の中には「普通」と「普通じゃないこと」があり、リンコのような女性は、世間一般的に「普通じゃない」という扱いをされること。そのことに傷つきながらも、普段は「なんともない」顔をして、笑って生きているリンコという女性がいることを。

 リンコは「すっげー悔しいこととか、死ぬほど悲しかったりすることを、全部チャラにするの」と、編み物を趣味にしている。毛糸を編んでいると、その怒りや悲しみが次第に消えていくという。

 だが、3人の笑いに満ち溢れた生活は続かない。突然、トモの母親が戻ってくるのだ――。

 本作のリンコ役を、「ザ・イケメン」という役柄や、男っぽく荒々しい役のイメージが強い生田斗真が演じる。「こんなに難しい役と出会ったことはありません」と本人もコメントを寄せているが、リンコ役がいかに「リアル」かで、観た人が「物語にどれだけ入り込めるか」左右されると思うので、プレッシャーもひとしおではないだろうか。そんな難しい役柄だからこそ、生田斗真がどのように演じてくれるのか、とても期待感が持てる。

 リンコを支えるマキオは、桐谷健太が演じる。小説を読んだイメージだと「文系優男」を思い浮かべていたので、「ちょっと違う?」と思ったが、マキオは「男性が好き」というわけではなかったのに、リンコから醸し出されていた内面的な「美しさ」に惹かれ一目惚れし、愛し続けることを誓った男性だ。その包容力は、桐谷健太のイメージにバッチリ合っている。

 少女トモは子役の柿原りんか。子供だけど、子供らしいというより大人びていて、だけど繊細で、母親に対して怒りだか、憎しみだか、愛情だか、何を抱いているのか自分でも分からない……という少女の役はとても難しかったと思う。映画ではどのように見せてくれるのか、今から楽しみだ。

 本作は「トランスジェンダー」という難しいテーマを扱っているが、「お上品な教育的作品」ではない。人間くさい登場人物たちが、時には「ビールうめー」とストレス発散しながら、一日一日を大切に生きている物語だ。そして、なんだか「あなたも傷ついていいんだよ」と言われている気になる。

 映画は2月25日から全国で公開。ぜひ映画館に足を運んでほしい。心がすーっと軽くなり、笑いながらも泣いてしまうだろう。

文=雨野裾


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