元アイドル、自衛隊員、SE…1回の出演料は1万円から。皮膚を焼かれたことも。「企画ものAV女優」たちがそれでも演じ続ける理由とは?

社会

公開日:2017/2/3

『名前のない女たち 貧困AV嬢の独白』(中村淳彦/宝島社)

 最貧困女子、都市型貧困女子、女女格差、高学歴貧困女子、貧困シングルマザーetc. 近年、ニュースや本のタイトルなどで目にする機会が多くなった「貧困+女性」の組み合わせワード。今回新たに、そんな貧困リストに加わるのが、『名前のない女たち 貧困AV嬢の独白』(中村淳彦/宝島社)だ。

 本書は、『月刊宝島』『ソフト・オン・デマンドDVD』に掲載された14名分の連載稿に、新たに4名の書き下ろしを加えたインタビュー集だ。登場するのは、20代から60代までの現役&元AV嬢やAV志願者などで、いわゆる「企画ものAV女優」と呼ばれる方々だ。

 女優名がバンと大きくパッケージに印刷されて商品価値が出るのが「単体女優」で、AV嬢のトップランク。本書に登場するのは、パッケージ裏面にかろうじて名前が出るか出ないか、といったランクの方々なので「名前のない女」となる。

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 しかし、だからこその物語がそれぞれにあり、そこが本書の読みどころとなる。元アイドル、元日本代表のバレリーナ、元自衛隊員、国立大卒の元SE職など経歴も多彩だ。語られるのは、幼少期・思春期の頃の家庭環境や生い立ち、売春や風俗経験の有無、AVデビューすることになった経緯や、その結果、得たものや失ったもの、といった内容が中心だ。

 現役バリバリの20代AV嬢などは、それなりに収入はあるようなので、18名の女性のすべてが貧困AV嬢というわけではない。しかし著者によれば、企画ものAV女優は「セックスを売るリスクを考えたら安すぎる出演料」という現実と向き合っているらしい。

 その典型例が巻頭に登場する、「日本最安値AV嬢」のつるのゆうさんで、彼女は事務所に属さないフリーランサー。1回の出演料は1万円~だという。インタビューの中で最も衝撃的だったのは、あるSM系撮影現場では、騙されてバーナーで皮膚を焼かれたという経験のくだりだ。泣き寝入りせずに弁護士を立てて争った結果、示談を勝ち取っているが、しばらくの期間、AV仕事はできない身体になったそうだ。

 しかしそんな経験に懲りるのではなく、むしろ糧にして、その後もフリーAV嬢を続行中というからじつにたくましい。国立大卒の高学歴でSE職経験もあるという彼女によれば、「SE現場の方がよほどブラックだったし、とにかく肉体労働が好き」なのだそうだ。

 本書はインタビュー集なので、一冊を通して訴求する共通テーマがあるわけではない。しかし、家庭崩壊、ネグレクト、DVなど、幼少期の家庭環境や歪んだ人間関係をきっかけに、自分の存在価値を推し量るべく、売春、性風俗、AVなどのセックス産業へ道を求めてしまうケースが多いことがわかる。

 また、著者の中村淳彦氏は、「親世代からの貧困の連鎖が深刻だ」とも指摘する。本書にも登場するが、親が学費を払えないため利子の付く奨学金制度で大学に通った結果、その返済に追われてセックス産業へと向かう若い女性が増えている現実もある。

 20代から60代まで、あらゆる世代において、それぞれに困難な現実がある。転身先はセックス産業ではないにせよ、男性も同じく人生を迷走中の人は多いはずだ。本書に登場する数々の女性たちの物語を通して、そんな日本の現状を突き付けられたような気がした。

文=町田光