絶大な人気を誇る小泉進次郎氏の演説―ビジネスシーンでも活用できる極意とは?

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更新日:2017/2/7

「自民党をぶっ壊す」

 小泉純一郎氏はわかりやすいフレーズを武器に2001年から2006年までの5年間、総理大臣の座に就き、日本に“小泉旋風”を巻き起こした。3年後の2009年、政界を引退した小泉純一郎氏の跡を継ぎ、小泉進次郎氏が初当選を果たす。

 そして、現在までの進次郎氏の活躍ぶりはご存じだろう。今や自称「人寄せパンダ」として自民党内での存在感を発揮。有権者からは「首相にしたい」人物として名前が挙がるまでになった。しかし、彼の政治家としての門出は順風満帆なものとは言えない。世襲を批判した父・純一郎氏の後釜として衆議院選挙に出馬したことで世間からの逆風は凄まじく、演説の際に、ペットボトルを投げられることもあったという。

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 どん底の状態から現在の地位を確立できたのは、彼が持っている「先手を取る」という戦術があってこそ。そんな進次郎氏の技術をビジネスマンにも落とし込めるように伝えているのが『小泉進次郎「先手を取る」極意』(向谷匡史/青志社)だ。以下に本書に記載されている進次郎氏の技術の一端を紹介したい。

■先手1 「最初の一言」に全神経を集中する。関心を引きつける「つかみ」は、万言をもしのぐ。

 どんなに偉大な演説や、どんなに有り難い格言であっても、相手が話を聞いていなければ無意味。だからこそ、進次郎氏は「どういう切り出し方をすれば、聴衆の関心を引きつけることができるか」を考え、実践しているという。2012年、衆議院選挙で北海道9区の立候補者を応援するために駆けつけた進次郎氏。演説冒頭で「みなさんが毎日当たり前に食べているものは、当たり前じゃない。ほかの地域の人たちには、並んでも食べたいもんなんです」と北海道の農・水産物を褒めている。褒められた方は決して悪い気はしないもの。こうして聴衆に関心を持ってもらうことが狙いなのだ。

■先手10 懐疑することなく、マンネリに徹する。繰り返せば「十八番」となる。

「こんなに暑いのに、ようけ集まってもろうて、本当にうれしいけん」

「こっだら寒いなか、よくおいでやんした」

 前者は愛媛県、後者は山形県米沢市での演説の際に、進次郎氏が聴衆に言った一言。方言を使って挨拶をするのは彼の十八番であり、テレビニュースでもよく取り上げられている。政治家のこうしたパフォーマンスは「わざとらしい」とマイナスに感じる人がいるかもしれないが、実際に言われる地元民としてはうれしいものだ。そして、繰り返し繰り返し、方言での挨拶を続けることで、それが小泉進次郎ならではの“お約束”となる。このことも進次郎氏の演説を際立たせる理由のひとつなのだ。

■先手23 意表をついて存在感を示す。自己演出も戦術の一つと割り切る

 ただ謙虚なだけでは人は好感を持たない。そのことを理解してか、進次郎氏は「意表をついた謙虚さ」を武器として使っている。自民党はTPPを推進させるために、小泉進次郎を自民党農林部会長という役職に抜擢。難しい舵取りが迫られる中、農林部会での就任挨拶で進次郎氏が存在感を見せる。「一つ明らかなことがあります。この中で誰よりも農林の世界に詳しくありません」と農林部会の先輩方に挨拶した。この平身低頭な姿勢に、ベテラン議員は好感を抱き、「彼となら話ができる」と前向きな態度を見せたという。厳しい目が向けられていた状況から一変、周囲を取り込み味方に引き込んでしまった。

 絶大なる人気を誇る小泉進次郎氏。その人気の要因は彼の爽やかな容姿だけではない。自分の発言が周囲にどのような印象を与えるかをわきまえていること。彼が決して揺るがない信念を持ち、上手に表現していること。この二つが大きな理由だろう。そんな彼のテクニックを一つでも二つでも知っていれば、彼の演説がまた違って見えるだろう。そして、本書のテクニックを駆使することで、進次郎人気の10分の1、いや100分の1でもあやかれれば、周囲の評価が上がっていい思いができる…かもしれない。

文=冴島友貴