知らない間に健康被害が!? “低周波音被害”―その実態に迫る
公開日:2017/2/10
春が嫌いだ。体中の水分が無くなってしまうのでは、と疑うほど、止まらない鼻水。ウサギのように目が真っ赤になるほど擦っても、収まるところを知らない目の痒み。バイクや車の運転に支障をきたすレベルで、繰り返されるくしゃみ(実際、私の友人は、くしゃみが原因で追突事故を起こしたことがある)。そう、私は花粉症である。
花粉症は体内に入った花粉を、害なす異物であると勘違いした身体の拒否反応。いわゆるアレルギーだ。全て無意識の自律神経の働きによるものなので、一生花粉症に無縁な人もいれば、子供の頃から苦しむ人がいるなど個人差がある。そして、この原稿を読んでいる花粉症ではないあなたが、明日から発症することも。「知らぬが仏」とはよく言ったもので、花粉症は「知ったが地獄」と言える。
ここまで花粉症について語っているが、今回紹介する本は花粉症がテーマではない。『低周波音被害を追って 低周波音症候群から風力発電公害へ』(汐見文隆/寿郎社)はタイトルの通り“低周波音”がテーマだ。あまり聞きなれない言葉かもしれないが、この“低周波音”は花粉症のように、ある日突然、猛威を振るう可能性がある。症状としては頭痛・不眠・肩こり・動悸・耳鳴り・痺れ・だるさ・微熱・食欲不振など。この被害は年々件数が増加しているという。
“低周波音”とは概ね1ヘルツ~100ヘルツの音のことで、人にはほとんど感知できないような音も含まれている。決して特別なものではなく、風や波などによって“低周波”は発生する。なぜ害を及ぼすようになったのか。それは、音源の数の増加だ。工場の機械やテレビ・冷蔵庫といった家電製品、急速に普及が進むエコキュート、未来の発電施設として注目を集める風力発電などが“低周波音”を発生させる音源となっている。
この音源の増加に加え、人が感知できる音を遮断する防音技術の向上も被害を生む原因のひとつ。防音設備は人の耳で感知できるような騒音を防ぐことはできても、聞こえづらい、あるいは聞こえない“低周波音”を防ぐことはできない。そのため、普段は騒音に紛れていた“低周波音”が目立つようになり、人体に影響を与えるようになった。
“低周波音”の被害は個人差があるという。本書にいくつか事例があるので、一部を紹介しよう。近くに工場がある家に越してきた夫婦。奥さんは越してすぐに“低周波音”により体調不良を訴えるように。その数年後、それまで何ともなかったご主人が、奥さんと同じ症状に悩まされるようになったそう。
この個人差の原因は脳の働きによるものではないかと著者は述べている。人間は右耳と左耳、つまるところ右脳と左脳では聞き取りの得意分野が異なるのだという。右脳は音楽や機械音、雑音を、左脳は言語音を聞き取るのに長けている。“低周波音”は機械音・雑音なので、普段は右脳が処理し、雑音と判断すれば身体は反応しない。しかし、長期間“低周波音”にさらされることで右脳から左脳に処理が切り替わってしまう。これは、勉強し始めの英語は雑音として右脳で処理されるものの、勉強を進めていくことで言語として捉え左脳で処理するようになる働きと一緒なのだという。英語の習得は当然ながら個人差がある。“低周波音”でも同じ脳の働きが起こり、過敏に反応してしまうことが体調不良につながっているのだ。
“低周波音”による体調不良を改善するには、その音源を取り除くしかない。結局、原因を取り除くことができず、あるいは“低周波音”が原因であると知ることができず、引っ越しを余儀なくされたというケースも。しかも「聞こえない」音であることから原因不明とろくに調査もしないで軽視する自治体が多いそう。原因が家電など音源の増加と防音技術の向上であるならば、今後も被害は増え続けるだろう。花粉症のような“国民病”になってからの対応では遅すぎるのだ。
文=冴島友貴