『騎士団長殺し』発売までに読んでおきたい! 村上春樹の短編小説たち
更新日:2017/11/12
2017年2月24日に村上春樹の新作が新潮社から出版されることになった。今のところ明らかになっているのは、400字詰め原稿用紙で2000枚の書き下ろし作品で、全2冊で出版されるということ。『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(文藝春秋)から約4年ぶりの長編ということもあり、心待ちにしている村上ファンも多いのではないだろうか。村上春樹の長編小説といえばベストセラーの常連だが、意外にも短編は知られていないことが多い。だが、村上春樹の小説の真髄は長編だけでなく短編にあるという。
『短篇で読み解く村上春樹』(「村上春樹を読み解く会」代表 齋藤隆一:著、神山睦美:監修/マガジンランド)には、村上短編と長編の密接な関係が紹介されている。
同書によると、短編には、長編の習作的な役割を果たしているものが複数存在するという。例えば、短編集『螢・納屋を焼く・その他の短編』(新潮社/1984年)に収録されている「螢」は、大ヒット長編『ノルウェイの森』(講談社)に発展した。「螢」は村上ファンの中で指折りの傑作と評されているが、村上はその出来栄えに満足できず、何度も書き直しを行った。その結果生まれたのが『ノルウェイの森』だったのだ。
また、村上短編は、新たな長編を書き上げるための準備として、何らかの試みをする場ともなっているという。例えば、『神の子どもたちはみな踊る』(新潮社/2000年)と『東京奇譚集』(新潮社/2005年)という2つの短編集では、全11編中10編に三人称の文体が用いられた。それまでの村上の作品のほとんどは一人称を用いていたため、これは新しい試みだった。そして、この2つの短編集の後に出版された長編『1Q84』(新潮社/2009~2010年)には、村上長編で初めて全編で完全な三人称の文体が用いられた。この流れについて、同書は「短編が三人称の文体を習得するための練習の場となった」と解説している。
さらに、同書には、作品に描かれている難解なメタファーについての解説、単行本に収録されていない幻の短編の紹介など、村上作品を楽しく読み解くための豆知識がもりだくさん。長編が発売されるまでのあいだに、これまでの短編をおさらいしてみてはいかがだろうか?
文=田中よし子(清談社)