尾木ママが提言! 今こそ「古い学力観」を脱却して「キー・コンピテンシー」を身につけさせる教育へ
公開日:2017/2/14
AI(人工知能)の進化が目覚ましい。ニュースサイトなどで「◯年後にはAIに乗っ取られる仕事」と題されたリストを目にすることが多くなってきた。国を雇用が支え、雇用を人材が支え、人材を育てるのが教育だ。これから望まれる教育とは、どのようなものだろうか。
“尾木ママ”こと尾木直樹氏の新著『取り残される日本の教育 わが子のために親が知っておくべきこと(講談社+α新書)』(尾木直樹/講談社)によると、これからの日本は“古い学力観”を脱却しなければならない。“古い学力観”とは「教科基盤型の、基礎学力を量と速度で評価する観点」。尾木氏は、「『定型的』なスキルを発揮するだけでよければ、量・速度・正確性の点からいっても、パソコンやロボットのほうが人間よりもはるかに優秀です。コスト面でも、そちらに任せたほうが有利に違いありません」と、古い学力観をバッサリ切る。
では、日本がこれから持つべき“新しい学力観”とは、どのようなものか。尾木氏は「世界基準のキー・コンピテンシーを見つけさせる教育への転換が急がれます」と提言する。
「キー・コンピテンシー」とは何か?
現在、世界35か国が加盟するOECD(経済協力開発機構)が打ち出した新しい能力概念のことで、「相互作用的に道具を用いることができ」「異質な集団で交流でき」「自律的に活動できる」能力が、これからの知識基盤社会を生きていくために要求されるという。すでに世界各国では、“新しい教育”が進められている。
「日本の教育は遅れている」と嘆く人がいるかもしれない。本書によると、過去に“古い学力観”を脱却するチャンスがあった。2002年度から実施された「ゆとり教育」だ。知識の量を増やすことよりも、子どもが自ら学び、自ら考える経験を積ませることで、思考力や問題解決能力、協調性や思いやりを備えた人間に成長させることを目的としたゆとり教育こそ、世界標準のキー・コンピテンシーに通ずるものだった。しかし、学力低下の代名詞のように扱われ、気運が消え去ってしまったことを、尾木氏は残念に思っている。
尾木氏は、ゆとり教育を、次のように擁護する。
「ゆとり教育」が完全導入されたのは、小中学校では2002年度から、高校では2003年度からです。一方でPISA調査は、日本では高校1年生が受けることになっています。ですから、たとえば2003年のPISA調査を受けた子どもは「ゆとり教育」を1年間しか受けていないことになり、その影響の大きさを論じることにはどう考えても無理があります。
PISA(生徒の学習到達度調査)は、先述のOECD加盟国をはじめとする世界の15歳の男女にテストを受けてもらい、その結果に基づいて義務教育の習得度を測る調査であり、国際的信頼度が高いといわれている。PISA調査の「数学的リテラシー」では、日本は2000年に1位だったのが、2003年では6位に落ち込み、この結果が「PISAショック」「学力低下」と報道され、多くの日本人を失望させたのを覚えている人は多いだろう。尾木氏は以前から「ゆとり教育=学力低下」を疑問視する声をあげている。
そして、最近になって「ゆとり教育は間違いではなかった」と発言する教育関係者が増えているという。
理念や目的は素晴らしくとも、「ゆとり教育をもう一度」というのは、国民の理解が得られないだろう。しかしながら、尾木氏は希望を失わない。2020年度の学習指導要領のなかで本格的に導入される「アクティブ・ラーニング」だ。従来の講義型一斉授業ではなく、子どもの「主体的、対話的な学び」を主眼に置き、「深い学び」を獲得しようとするこの「能動的学修法」こそ、日本の教育を世界標準に押し上げるものの一つだと見ている。
だが、「アクティブ・ラーニング」導入で、授業内容が削減されて、また子どもが学力低下に陥るのでは、と批判する人々は、一定数存在するという。今、大人こそが「古い学力観」を脱却する必要がある、と本書は問いている。
文=ルートつつみ