もう限界! 仕事を抱えすぎる人が知るべき、任せ方の極意

ビジネス

公開日:2017/2/20

 企業にとって、春は新入社員を迎える季節だ。それはひとえに、ついこの間まで先輩たちに支えられていた社員が、ただ日常の業務をこなすだけではなく、後輩を指導するという新たな役割に頭を悩ませ始める時期だということを意味する。

 自分が普段、こなしているものを人に伝えるのは意外と難しい。日々の業務に忙しない中では、ついつい「命令」を口にするだけとなり、やがては「あの先輩ウザイんだけど……」なんて陰口を叩かれてしまうかもしれない。

 しかし、「先輩は、後輩が自律成長するためのサポーターである」と教えてくれるのは、大手航空会社の社員たちが実践するノウハウを詰め込んだ書籍『人もチームもすぐ動く ANAの教え方』(KADOKAWA)が、2017年2月17日(金)に発売された(電子版も同日配信)。ANAの現場には、上意下達な「動かす」「引っ張る」ではなく、「『サポートする』教え方が最強のチームプレイを生む」という精神が流れているという。

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◆考えて動ける後輩を育てるには“問いかける”のが重要

 後輩の成果が自分にも響くという環境では、ついつい“答え”を差し出してしまう機会も多い。例えば、営業における得意先とのやり取りだ。「取引先から帰ったら、その日のうちにお礼のメールをしておくのがいいよ」といえば、その瞬間には後輩も「そうなんだ」と納得するかもしれない。しかし、ストレートに答えを示すのではなく、後輩に“問いかける”ことこそ成長には欠かせないと本書は主張する。

 先の例でいえば、後輩に「取引先にはどう対応すればいいと思う?」と聞くことが重要になる。臨機応変さが求められる現場では、必ずしもマニュアル通りに事が運ぶとは限らない。だからこそ、なぜ今「その行動が必要なのか」と考えさせることが成長に繋がるというわけだ。また、こうした“問いかけ”は新人研修の内容を理解しているかどうかの確認、仕事に慣れてきた中堅社員が業務内容を再確認するためにも有効だという。

◆最終的な責任を負い“任せる”のが先輩や上司の役割

 自分がこなしていることを、他人に任せるというのはなかなかの勇気がいる決断だ。自分でやった方が早い。後輩のミスをかぶりたくないと考えるのは自然で、ついつい手を出してしまいがちなのだが、じつは、後輩の成長を促すもっとも効果的な方法は“任せる”ことだと本書は示す。

 これをANAでは「代行」と呼んでいるというが、その真意は、実践で学ばせるということだ。この際に重要となるのは「責任が取れる範囲で任せる」こと。この場合、先輩や上司は緊張感を持ちながらじっとこらえつつ見守るのも必要で、万が一の場合には、ふたたび舵を取り最終的な責任を担う心がまえも求められる。

 さらに、不足の事態で時には“失敗させる”ことも重要だという。実際、空港の地上係であるANAのグランドスタッフには「イレギュラー時のリーダー任命」という仕組みがあり、やがてその失敗を振り返ることで、本人の成長に繋がった事例もあるそうだ。

◆ANAに流れる「主役は現場で働く一人である」という精神

 なぜANAは、後輩の“自律”を促そうとするのか。現場の社員だけではなく、中間管理職から経営陣まで「自分たちは後輩のサポーター役」だと口をそろえるというが、その背景には「主役は自分たちではなく、現場で働く一人である」という精神が流れているという。

 年功序列による日本企業の慣習では、カリスマ的なリーダーが現場を引っ張るという“トップダウン”の組織も目立つ。しかし、ANAが取り入れているのはその真逆、先輩や上司が縁の下で支えるという“ボトムアップ”というマネジメント手法である。

 このような意識が根付いたのは、空港や飛行機という正解のない現場で立ち回れる臨機応変さ、そして、一分一秒を争う忙しない環境で意思決定のスピードが求められてきたからこそ。仕事に「『正解』はありません」と主張する本書であるが、一人ひとりの業務内容がふくらみ続ける現代社会において、ANAの人材育成術は大きなヒントになりうるだろう。

文=カネコシュウヘイ