ももクロは“プロレス的”で、AKBはそうじゃない?『ももクロ×プロレス』著者・小島和宏インタビュー
公開日:2017/3/4
幕が開くと、覆面を被ったメンバーたちがチェーンを振り回しながら現れた。「歌う前に脱ぐんだろう」と思いきや、一向に脱がない。なんだ、なんだ? 一体、なにが起きているんだ? ついに彼女たちは、覆面を被ったまま一曲を歌い切ってしまった。「普通のアイドルだったらイントロで脱ぐはず。プロレスを分かっているなぁと思った」。初めてももクロのライブを観たときの衝撃を、小島和宏氏はそう振り返る。こんなにも面白いエンターテイメントが、プロレス以外にあったのか、と。
元・週刊プロレス記者であり、活字プロレス黄金時代を駆け抜けた小島氏。フリー転向後はプロレスのみならず、お笑い、特撮、サブカルチャーなどの取材・執筆を手掛けてきた。しかし2011年、ももいろクローバーZのライブを観て以来、アイドルの世界にどっぷりハマり、いまではももクロ公式ライターを務める。
そんな小島氏が上梓した『ももクロ×プロレス』(ワニブックス)。ももクロメンバー5人と、人気レスラー5人による対談集。否、5大シングルマッチだ。「天龍源一郎×玉井詩織」にはじまり「飯伏幸太×佐々木彩夏」、「越中詩郎×高城れに」、「岩谷麻優×有安杏果」、そして「武藤敬司×百田夏菜子」――。越中詩郎の人生論を聞いた高城れにが、試合後に泣き出す。飯伏幸太の壮大な夢に対し、佐々木彩夏も負けじと夢を熱く語る。まさにプロレスの試合そのものと言っても過言ではない熱戦が繰り広げられた。
ももクロと、プロレス。一見、相反する2つのエンターテイメントの共通点とはなんなのだろうか。小島氏にインタビューを敢行した。
――絶妙なマッチメイクでした。とくに高城れにさんが試合後に泣き出したのは、プロレス的には最高ですよね。
小島さん(以下、小島)「ももクロのマネージャーである川上アキラさんが大のプロレスファンで、『高城れにには越中さんを当てたい』と。主役じゃなくて苦労をしている人に、“脇役でも輝ける生き方”を教えてもらいたいということでオファーをしたんです。越中さんには、すごく失礼なオファーで申し訳ありませんがと話したんですけど、『俺はそういう人間だから全く問題ない』と快諾していただきました」
――それぞれのメンバーのポジションやキャラに合うレスラーを当てたんですね。佐々木彩夏さんの対戦相手が一番難しかったと書かれていますが、飯伏選手に決めたのはなぜですか。
小島「いま彼女はライブのプロデュース的なこともやっているので、物を作るということ、お客さんを沸かせるとうことを考えた場合、プロレス界でも新しいことをやっている飯伏幸太なのかなと。ベテラン勢には生き様を教えていただいて、飯伏選手に関しては『これからどうしようか』という話をお互いにぶつけた感じです」
――対談自体がまるで本当のプロレスの試合のようでした。
小島「越中さんみたいに相手のデータを調べてくる人もいれば、武藤さんみたいに真っ新な状態でくる人もいて、ああ、プロレスと同じだなと思いました。飯伏選手と佐々木彩夏は初対面だったので、完全に探り合いでしたね。相手がどう出るのか、こう技を仕掛けたらどう返してくるのか、さっぱり分からない中、途中からいい感じに技の掛け合いになって、名勝負になったんです。僕らもどう転ぶか分からなくて心配だったんですけど、思いの外、上手くいきました」
――飯伏選手が自分から質問したりするのは、意外な一面ですよね。
小島「彼は常識から外れたところで生きているので(笑)、佐々木彩夏からすると『ハア?』ということがたくさん出てくるだろうなと思っていたんですけど。意外にも飯伏選手のほうから、これはどうなんですか、どうなんですか、と試合を作ろうとしてくれました。飯伏選手にとっても、いい経験になったんじゃないかなと思います」
――飯伏選手がDDTプロレスリングと新日本プロレスの二団体所属だったことを、「あーりんがももクロのメンバーとして活動しながら、乃木坂46にも同時に加入して、乃木坂でセンターをとっちゃうぐらいのこと」と小島さんがおっしゃって、佐々木彩夏さんはかなり驚かれていました。個人的には、なぜAKBではなく乃木坂なのかなと疑問に思ったんですよね。
小島「乃木坂って、お嬢様学校みたいな感じなんですよ。AKBはバラエティもやるし、汚れ仕事みたいなこともやる。テレビドラマにしても、この前はキャバクラが舞台で、今回はプロレスです。でも乃木坂には絶対そんなことはやらせない。プロレスに置き換えると、DDTと新日本です。世間から見たら同じアイドル、同じプロレスだけど、さすがに新日本にヨシヒコ選手(※ダッチワイフ)は上げられないだろ、という部分での対比ですね」
――ももクロとプロレスの共通点はどういったところなのでしょうか。
小島「プロレスファンなら必ず分かるオマージュが、コンサートの中にたっぷり入っていたんですよ、昔は。アントニオ猪木さんのパロディで『やる前から負けること考える馬鹿がいるかよ』と言って、玉井詩織がアナウンサーをビンタしたり。アルバムタイトルやライブタイトルも、プロレスに引っ掛けたものばかりだったり。点と点を線でつないでいく作業だったり、春のイベントのエンディング近くでは必ず夏のビッグマッチの予告編が入ったり」
――予告があるのは、かなりプロレスっぽいですね!
小島「4月から8月の4ヶ月間はみんな、『夏のライブ、どうなるのかな?』という話で盛り上がる感じとかも、全部プロレスから取っているんですよね。WWE(※アメリカのプロレス団体)ですよ。春はレッスルマニアがあって、夏はサマースラムがある。あれを下敷きにしているので、春は『ももクロ春の一大事』というのを必ずやっていて、夏は『ももクロ夏のバカ騒ぎ』、冬は『ももいろクリスマス』がある。一つ一つ独立したイベントとしても面白いんだけど、ちゃんとストーリーラインが繋がってくるんです。本人たちは自覚していなかったけど、大人たちはそういう作りをしてきたんですよね」
――AKBもいま『豆腐プロレス』というドラマをやっていますが、AKBとプロレスの親和性はいかがですか。
小島「AKBの場合、AKB側がプロレス的なことをやるんじゃなくて、ドキュメントとして見せてきたのがプロレスっぽかったんですよ。総選挙で残酷な現実を見せたり、ライブのときに過呼吸で倒れちゃった子とかを全部カメラで撮っておいて映画で見せたり。それを見た僕らが勝手に『プロレスだなあ!』と解釈して楽しんでいたんです。DDTの高木三四郎社長とずっと総選挙を見に行っていたんですけど、高木社長は総選挙もじゃんけん大会も全部パクっちゃいましたからね(笑)。『あれはプロレスだ。プロレス業界が忘れたプロレスをAKBがやっている』と。簡単に言うと、人間ドラマを見せるということですね。
ただ、AKBとももクロの違いって、ハッピーエンドで終わるかどうかだと思うんです。ももクロはなにがあっても、最後の最後は笑顔で終わらせるというのを守ってきたんですけど。AKBの場合は悲しいサプライズが多くて、毎度、毎度、メンバーはステージで泣き叫ぶ(笑)。見ている側が精神的に持たないんです。僕らはAKBをプロレス的に見ていたけど、そうじゃなくなって来ちゃったかなと。AKBの運営側からすると、べつにプロレス的なものを提供していたわけじゃないという部分ではありますけど。ももクロの場合はマネージャーが、『僕はプロレスが大好きで、プロレスをお手本にエンターテインメントを作っていきます』と公言しているので、そこは大きな違いかなと思います」
――ももクロはプロレスをやらずして、プロレス的なことをしている。
小島「AKBはドラマとは言え、プロレスを実際にやる。ちゃんと練習もして。ももクロはそうではなくて、プロレスラーの生き方や、プロとしての見せ方を伝授してもらう。彼女たちはコンサートでレスラーと共演しても、技は基本的に受けないんですよ。技を掛けることはあっても、受けるのは失礼だというのがあるから。あれは受け身を練習して鍛えているから出来ることだし、ももクロがかけた技を受けることでプロレスラーの凄味を表現できる。そこにはものすごいリスペクトがあるんです。以前、『スッキリ!!』で加藤浩次氏が、『分かってねえな、ももクロは。プロレスは受けの美学なんだよ』と言っていたんですけど、いやいや、分かってるから。それを分かってるから受けないんだよ、と。やるんだったら何ヶ月も練習してからじゃないと出来ない。まぁ、あの発言自体も加藤浩次が仕掛けた“プロレス”だとは思うんですけどね。そういう意味ではAKBと真逆ですよね。AKBも偉いのは、今回練習をがっつりやってから撮影している。技だけじゃなくて、受け身からちゃんとやらせているんですよね。プロレスラーをコーチにつけて、しっかりと」
――5つの対談を通して、一番驚いたことはなんですか。
小島「越中さんが帰ったあと、高城れにとマネージャーの川上さんが大泣きしたことですね。越中さんが自分の恥を全部さらけ出して、染みるなあと思っていたんですけど、本当に大泣きだったのでびっくりしました。高城は『これから先を照らしてもらった』と言っていましたね。スマホの待ち受けを越中さんとのツーショットにしていて、ツラくなったら越中さんを見ます、と(笑)。メンバーの中で最年長なので、体力的な部分だったりとか、他のメンバーよりもいろいろ考えると思うので、越中さんに『辞めたら全部終わりだからね』と言われて思わず泣いちゃったんでしょうね」
――この本をどんな人たちに届けたいですか。
小島「ももクロかプロレス、いやアイドルかプロレス、どちらかが好きなら確実に面白いです。レスラーのみなさんはももクロメンバーに分かりやすく説明しようとしているから、結果、プロレス雑誌のインタビューでは答えないようなことを喋っているんですよ。武藤さんなんか物凄く丁寧で、いつもと全然違うじゃんっていう(笑)。すごく新鮮だと思うので、プロレスファンの人には特に読んでいただきたいです」
プロレスだけを見ていると見えないものが、ももクロというフィルターを通すと実によく見えてくる。プロレスって、シンプルにこういうことだよね、と腹落ちする。プロレスの視点でももクロを見ると、こんなにも魅力的なグループだったのかと驚かされる。プロレスファンもももクロファンも、“ももクロ×プロレス”という熱い戦いを見ない手はない。
取材・文=尾崎ムギ子
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