イケメン無罪を地でいく生徒会長が巻き起こす! 恋とハプニングの嵐。一芸変人ばかりが集った生徒会ラブコメ

マンガ

公開日:2017/3/1

 突風のようなマンガだった……と勢いに飲まれて読後しばし呆然としてしまった『しかない生徒会』(モリエサトシ/白泉社)。ゲスで暴君な性格もすべて帳消しにする驚異の顔面偏差値を誇る御門は、“顔しかない”生徒会長。彼を筆頭に“しかない”だらけの変人たちが集う生徒会に、運動能力しかない田舎育ちの転校生・ユキが巻き込まれていく一風変わったラブコメだ。

「ネタはいいがまだ早い、もっと力をつけてからと言われ、お蔵入りになっていた」と著者が語る本作。満を持してお披露目に至っただけあって、1巻は息つく暇もなかったというか、気づいたらラストを迎えていたうえに、「えっ、ここで終わるの、続きは!?」と本気で狼狽えてしまった。

 イケメン無罪、なんて言葉があるが、本作の生徒会長・御門もまさにそれ。人が必死になる様がおもしろいと、マラソン大会で生徒の妹を人質にとり、トラップをしかけて、金をばらまかせる。右往左往する生徒たちを、ヘリの上から高みの見物。好き放題したあげくに「ああ、おもしろかった!」と最高級の笑顔をふりまいて場の全員を篭絡してしまう彼は、何度読み返しても、性格的に“いいところ”なんてひとつもない。本当はみんなのことを考えているとか、陰ながら努力をしているとか、今のところちっとも描かれない。せいぜい、子供を落ちた花瓶から守るという、人として当たり前の行動をするだけである。

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 だけどなぜか、腹が立たない。「なんでみんなそんな笑顔で許しちゃうんだよ!」と疑問も抱かない。なぜなら読み手であるこちらもその笑顔を見たとたんにどうでもよくなってしまうから。生徒会のハチャメチャさにユキが翻弄されて巻き込まれ、気づけば取り込まれていたのと同じように、読み手もいつのまにか生徒会に引きずり込まれてしまうという、おそろしい引力を放つ作品である。

 そんな会長よりも誰よりもキャラが濃いのが、彼に片想いをする副会長・切(きり)。会長がどんな状況にあってもついていくため、を原動力に、美貌も頭脳もそなえた彼女はむしろすべてを手にしているのでは……と思わないでもないが、頭の中には“恋しかない”。勝手にユキを恋のライバルに設定し暴走するが、ユキの想う相手は“人望しかない”ドジっ子書記・柘植。会長にほだされつつあるユキの姿に嫉妬して、いきなり暴走を迎えたラストに全読者が身悶えしたことだろうが、そんな彼の秘密も2巻で明かされるようなので、じりじりと発売を待ちたいところ。

 “しかない”というのは一芸に秀でた天才であり、それ以外はポンコツの変人でもある。だけどどんなにちっぽけな特技でも、胸を張って磨いていけば、状況を突破するカギになる。勢いだけだっていいじゃないの、物語を動かすことができるのなら、なんて気持ちにさせられる本作。金しかないのにユキをちっとも買収できず落ち込む・樺島と、頭脳しかないコミュニケーション不全(だけど柘植だけになつく)蒼という2人の会計も、おそらく何がしかのハプニングを起こしてくれるはず。破天荒すぎてまったく先の読めない本作、ぜひとも身をゆだねて巻き込まれてみてほしい。

文=立花もも