伊藤淳史「猫との芝居は驚きの連続。説得力のある場面を撮らせてもらえました」
公開日:2017/3/6
「『小説家』をせっちしました。」がうたい文句の映画『ねこあつめの家』。原作は累計1900万ダウンロードを突破した人気スマホアプリだ。庭先におもちゃやエサを設置し、猫たちが集まってくるのをゆるく待つアプリが、ほのぼのかわいい猫たちを堪能しながらスランプに陥った小説家の心の再起を描くハートフルストーリーと姿を変えた。
「僕は主人公の佐久本のように、出口の見えないトンネルに入ってしまって光が見つけられないという絶望的な状況に陥った経験はありません。小説家と役者は全然ちがう仕事ですが、自分次第で仕事が決まってしまうプレッシャーは似ていると思いました。佐久本が書けずにいる限り作品は完成しないし、僕がちゃんと芝居できないとやっぱり作品も中途半端なものになってしまいます。ただ芝居の場合は共同作業で、誰か一人だけが責任を負わされることはほとんどないので、すべてが自分の肩にのしかかってくる佐久本の苦悩とは比較できないかもしれません。逃げ出したくもなるでしょうね。そんな自分ひとりではどうにもならない状況だからこそ、外部の助けが必要だったし、佐久本の場合は、猫がその役目を果たしてくれたので、暗闇から抜け出せたんですね」
猫との芝居は、伊藤さんにとっても刺激的だった。役者として焦らされたというこんな場面も。
「パソコンで小説を書いている佐久本の手の上に猫が乗って、文章が全部消えてしまうというシーンがあるんです。台本には、庭から縁側にのぼってきた猫がタタタタッと佐久本に近づいてくる、たまたま手に乗っかって文章が消えてしまい、『こんな文章を書いてちゃだめだぞ』と佐久本が気づかされる……なんて書いてあったんですが、正直、そんなの猫にできるわけないだろって(笑)。しかもコマ割りで撮影してつなげるんじゃなくて、ワンカットで撮るっていうんですよ。それがとても必要で素敵なシーンだというのはわかりましたけど、絶対に猫には無理だろ、って。ところが、撮影してみたら、一発で撮れてしまった。油断していたら僕のほうがリテイクをくらってやり直しになっちゃうんじゃないかというくらい完璧でした。猫との芝居は基本的にリハーサルなしの一発勝負。そういう驚きの連続で、説得力のある場面を撮らせてもらえました。そんな猫たちの姿に、観ている方も佐久本と一緒に癒されてくれたらうれしいです。猫好きの方も、そうでない方も」
そんな伊藤さんがおすすめしてくれた雑誌『月刊エアライン』は、その名のとおり、航空機情報が満載の専門誌。幼い頃から飛行機を眺めるのが好きで「撮影中でも、飛行機の走行音のために通過待ちをしている時はまったく苦にならない。むしろ見上げているのが楽しい」という伊藤さんにぴったりの一冊なのだ。
「旅行が大好きなんですが、行先を決めるときも“どの機体に乗りたいか”で決めることが多いです。ボーイング747が『もうすぐ引退』と聞けば、最後にどうしてももう1回乗りたくて、そのために沖縄に行ったり(笑)。旅先としてはハワイ。少しでも時間ができたらハワイに行こうと思いながら生活しているので、ハワイ行きの便は注目しています。最近は、ご贔屓のボーイング787がかなり導入されてきたのでチャンスなんです。航空会社によって、こだわりも違えば内装も機材も違ってくるので、この雑誌からいろいろ情報を得て、自分が乗っている姿を想像するのが何より楽しいです」
飛行機のことなら何時間でも話せるという伊藤さんの話はまだまだ止まらない。
「マニアにしかわからないようなエンジンの話や、フライトテストのレポートも読んでいておもしろい。何かあったら全員が命を落としてしまう乗り物だから、やっぱり、ものすごく過酷な条件でテストしているんですよ。標高の高い場所を選んだり、横風で着陸してみたり。その努力には感銘を受けますし、技術の進歩にはますます夢が膨らみますね」
(取材・文=立花もも 写真=干川 修)
いとう・あつし●1983年、千葉県生まれ。子役としてドラマやバラエティで活躍、97年に映画『鉄塔武蔵野線』で初主演。出演作は、映画『海猿』『フィッシュストーリー』『ボクたちの交換日記』『ボクは坊さん。』、ドラマでは、連続テレビ小説『とと姉ちゃん』『大貧乏』など多数。15年『映画 ビリギャル』で日本アカデミー賞優秀助演男優賞受賞。
旅客機の歴史や世界のエンジンメーカーの最新事情、航空機のフライトテストレポート、パイロット・管制官・メカニックなどプロの活躍に密着した特集など、航空機にまつわる話題満載の総合エンタテインメント航空マガジン。テクニカルな記事はもちろんのこと、機内食や旅行に役立つ空港情報などを幅広いコラムを掲載している。
映画『ねこあつめの家』
監督/蔵方政俊 出演/伊藤淳史、忽那汐里、田口トモロヲ、木村多江、大久保佳代子 配給/AMGエンタテインメント 4月8日(土)より新宿武蔵野館ほか全国公開
●新人賞を受賞し小説家デビューしたものの人気は落ち込むばかりの佐久本。スランプから抜け出せずにいたある日、占い師の助言から一念発起、片田舎の古民家に引っ越すことに。そこでの猫との出会いから猫の集まる庭づくりを始めた彼は、次第に心に潤いを取り戻していく。人気スマホアプリ、まさかの実写映画化。
(c)2017 Hit-Point/「映画ねこあつめ」製作委員会