婚活を放棄したOL、対人恐怖症の美女、57歳義妹がゴスロリ…欠点や弱点、悪い癖を自分から引きはがせずにあがく女たちの悲喜こもごも

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/12

『こんなわたしで、ごめんなさい』(平 安寿子/実業之日本社)

「女性らしさ」とは何なのだろうか。男性が、「いい女」とか「可愛げのある女」とか思い込んでいるものは全て幻想で、全ての女性たちはそんな世間のイメージと戦いながら日々を過ごしているのかもしれない。

母として、妻として、社会人として、何より一人の女性として、戦うことに疲れたなら、『こんなわたしで、ごめんなさい』(平 安寿子/実業之日本社)をおすすめしたい。心を軽くして生きるためのヒントにきっと出会えるはずだからだ。

本作は人生に悩める女性たちを主人公にした短編集である。ときにせつなく、ときにおかしい彼女たちの生き様に女性読者は深く共感しながらページをめくってしまうことだろう。男性読者は、女性の本音を知ることで、自分が無意識のうちにデリカシーのない行動をしていないかチェックしてほしい。

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「婚活の外へ」では婚活サークルと、そこで出会った男性に振り回される梅津成美25歳の姿が描かれる。付き合いで仕方なく入会したサークル、そして成り行きで始めた交際、自主性がないだけの彼女に対して相手の男は「つつましいところがいい」と言ってくる。モヤモヤを抱える成美だが、おかまいなしに男は結婚を進めようとする。

「じれったい美女」では、渥美清似で不器量な主人公が、絶世の美女なのに内向的すぎて男性と縁がない親友に10年以上もやきもきさせられる。顔の美しさで人生が決まるとは限らない。美醜を超えて女性が幸せになる形が最後には優しく提示される。

「カワイイ・イズ・グレート!」では57歳にもなってゴスロリ・ファッションに身を包む義妹を好きになれない中年女性の葛藤が描かれる。義妹の趣味を止めさせようと、どんなに嫌味を言っても彼女は動じることがない。そのうち、誰に何を言われてもファッションを変えない義妹のポリシーが格好良く見えてくるのである。

これらの短編に共通しているのは、常識やコンプレックスに縛られて身動きが取れなくなった女性たちの苦悶だ。世間や男たちは女性を型にはめて、すぐに操ろうとする。あるいは女性たちも知らぬ間に「女性とはこうあるべき」と決め付け、自分の可能性を狭めてしまっている。そして、自分を隠さず生きている同性を疎ましく思いながらも、心の中では嫉妬と憧れが入り混じっているのだ。

そんな人たちもほんの少し視点を変えるだけで、重荷がとれ、人生が楽しくなるのではないだろうか。結局、他人に左右されず、自分の心に正直になることが一番大切なのだから。作者は女性ならではの実感をこめて、そう読者に呼びかけているように読める。

表題作「こんなわたしで、ごめんなさい」は、長年仕事でパートナーを組んできた早弓と美苗、二人の友情の危機についての物語だ。明るく要領が良い早弓と、頑固だが几帳面な美苗はお互いが足りないものを埋め合える最高のコンビだった。しかし、上司に取り入ることに夢中だった早弓は悪気ないままに、美苗が上司のやり方に反感を持っていることを口にしてしまう。結果、美苗は自主退職に追い込まれるが、早弓は素直に謝ることができない。

友情とプライド、思いやりと保身、葛藤の中で早弓は悩む。「どうして『ごめん』が言えないの?」とイライラする読者もいるだろう。しかし、女性なら早弓の葛藤を理解できてしまうのではないだろうか。

年齢を重ねれば重ねるほど、人は自分自身を変えるのが難しくなっていく。成長するときに必要な少しの勇気と恥をしぼり出せなくなってしまうからだ。それでも、最後に早弓は44歳にして大きな悟りを得る。

なんて、いい気持ちなんだろう。もう、止まらない。ごめんなさいを言うのが、こんなに気持ちいいなんて!
これからは、どんどん言おう!ごめんなさい自動発生マシンになるぞ。

いくつになっても変わっていく自分には大きな解放感があるのだ。大人になって自分から変わる一歩を踏み出せない人にこそ、本作のヒロインたちは背中を押してくれる。きっと誰もが「わたし」の新たな可能性をそこに見つけられるだろう。

文=石塚就一