「監視」する授業に、「手抜き」授業? 教師にも保護者にも役立つ「教える」テクニック
公開日:2017/3/9
「ふざけるな!」と私が教卓の前で怒鳴る。し~んと生徒が静まり返る、かと思いきや、私を指差し嘲笑。「何怒ってんの?」「つまんねぇ授業やってんじゃねえよ」そんなヤジが飛ぶ。どこで間違ってしまったのか、何がいけなかったのか、わからない。そんな考えで頭がいっぱいで真っ白に――という夢を見た。
私は大学生から社会人まで10年ほど、集団授業での塾講師の経験がある。そんな時に見ていた、いや、今でも時々見てしまうのが冒頭の夢。この夢を見るたびに変な汗が止まらなくなる。自分の声が生徒に届かない、いわゆる「学級崩壊」の状況は考えるだけでも恐ろしい。幸いなことに夢以外では経験したことがないが、小学校・中学校・高校ではそんな「学級崩壊」も日常茶飯事だという。
絶対に避けなければならない学級崩壊。これを食い止める方法の一つに“授業”がある。授業が上手くいかなければ、クラスの統制を取ることは難しい。そんな授業を成功させるためのあらゆる「策略」を説いているのが『策略 ブラック授業づくり つまらない普通の授業にはブラックペッパーをかけて』(中村健一/明治図書出版)だ。「策略」「ブラック授業」と授業の方法論を伝える本としては、物々しいタイトルだが、学校の先生・塾講師にすれば、目からうろこの技術が詰まっている。
例えば、第1章の初めに出てくるのは「どんな授業も休み時間には勝てない」という文言。「いやいや、私の授業を生徒は待っているんだ」という先生は思い出していただきたい。自分が小中学生だった時、「早く休み時間になって友達と話したい」「お腹空いた、昼休みまだかな?」と考えていなかっただろうか。私はまさにこれ。そして、塾に通う生徒を見れば一目瞭然で、授業前・授業後・休み時間に見せるあのイキイキした顔…。つまり生徒のほとんどは“授業<休憩時間”なのだ。まずはこの事実を受け止めなければいけない。
他にも「スペシャルな授業はいらない」「授業は『流れ』じゃない、いかに子どもを『監視』するかだ」「『楽しい』と思い込ませれば、手抜き授業も成り立つ」など一見、「えっ?」と思ってしまう内容もあるが、解説を見れば、子供の心理を丁寧に分析していて、理にかなっている。生徒・保護者・上司から板挟み状態になっている“マジメな新米教師”の方々にとって、得るものが多いはずだ。
ここまで「先生」目線で本書を紹介したが、ここからは「保護者」目線で役立つテクニックを紹介したい。
■「褒める貯金」をしてから、叱れ
子供が言うことを聞かなかったり、悪いことをしたりすれば、ついつい怒ってしまうもの。もちろん、子供を叱るのは必要である。しかし、普段から「褒める」をしなければ、子供は反発してしまうという。著者は普段から貯金をするように「褒め」、叱るときは短く、叱った後はいつまでも引きずらずにサラッと、を心掛けている。こうすることで、子供の反発を未然に防ぐことができるそうだ。
■「後で」シメるな、「先に」シメとけ
初めは見て見ぬフリをしていたけれど、時間が経つにつれてどんどん気になる。そこで、「○○をしてはいけない」と叱ったところで意味はない。むしろ、「今まで平気だったのに、何で急にダメになるんだ」と反抗心が芽生えてしまう。だから、気になったことはその場で、きちんと叱ることが大切だという。子供は親の「ブレた」意見・考えをよく見ているということだ。
■何をするかは教師が決め、クラスに君臨せよ
教師でも親でも生徒・子供が「やりたい!」と言えば、そのリクエストに全て応えてしまう人がいる。しかし、これは長い目で見れば逆効果。自分が望めば、大人はそれを叶えてくれると思ってしまえば、大人の言うことを聞かなくなってしまう。子供の要望を「聞く」だけではダメ。「断る」だけでもダメ。二つのバランスをきちんと取ってあげられるかが肝要だ。
私が本書を読んで、感じたのは、どの項目もきちんと“子供の目線”から考えているということだ。子供が求めているもの、子供が反発するもの、子供が疑問に感じるもの、その理由を丹念に考えた上での「策略」であり、「ブラック授業」なのだと。
こんな先生に教えてもらったら、もっと勉強が好きになっただろうか。こんな先生になれたら、もっと生徒が楽しめる授業ができたのだろうか。自分の子供に本書のような接し方をすれば、どんな子供に成長するのだろうか。そんなことを考えさせられた。
文=冴島友貴