あのバンドはなぜ解散したのか? 古今東西の人気バンドの解散理由
公開日:2017/3/12
「音楽性の違いにより」「それぞれが新しい一歩を踏み出すために」、人気バンドが解散するときに発表されるお決まりの解散理由を、どれほどの人が真に受けているのだろうか? 出会った頃は愛情に満ちていた夫婦も離婚の時には冷え切ってしまうように、バンドの解散には愛憎がつきまとわずにはいられない。
山田風太郎の『人間臨終図鑑』からタイトルを拝借し、191もの古今東西の人気バンドの解散理由を列挙していく一冊が『バンド臨終図巻 ビートルズからSMAPまで』(速水健朗、円堂 都司昭、栗原 裕一郎、大山くまお、成松 哲/文藝春秋)である。優れたバンドほど、解散には良くも悪くもドラマがある。そんな最後の輝きは、作品やライブと同じように人々を魅了することだろう。
本書の目的としてメインライターの速水健朗は二点を挙げる。
とにかく数多くの解散理由を一つの本としてまとめることにある。
「そんなの知ってるよ」と世間の音楽ファンが思いこんでいる解散の理由を、覆したいというものがある。
たとえば、70年代を代表するハードロック・バンド、レッド・ツェッペリンや90年代のUSグランジブームを牽引したロックバンド、ニルヴァーナの解散理由は「重要メンバーの死亡」であり、世間でも広く認知されている。
しかし、世間に知られていない意外な解散理由も存在する。代表例が、80年代、女性ファンからアイドル的人気を誇ったチェッカーズだ。一般的には人気絶頂だったボーカルの藤井フミヤが、特権的に振る舞うようになって解散へのカウントダウンが始まったとのイメージが強い。しかし、コーラスの高杢禎彦が自著で述べた内容によると、むしろ高杢が藤井をあごで使っていたのが真相だという。一方で、脱退をもちかけた高杢を藤井が引き留めるほど、二人の間には不思議な友情が存在していた。それだけに、憎しみへと転じたときの反動が大きかったのだろう。
バンドではないが、愛憎劇のあり方としてあまりにもインパクトが強かったのは、まだ記憶に新しいSMAPだろう。国民的アイドルでメンバー全員が大スターというスーパーグループでありながら、2016年を通して日本中に晒した後味の悪さは、すぐに払拭できる印象ではない。
事務所とのトラブルとバンド名を巡る醜い争いにまみれたHOUND DOG、救いようがないほどの兄弟喧嘩を繰り返したオアシス、ビヨンセの実父がマネージャーを務めたことで起こったメンバー間の不平等が問題となったデスティニーズ・チャイルド。有名バンドやユニットの解散理由を並べるだけでも「音楽性の違い」という文言がいかに建前じみているかが分かるだろう。ただでさえ、人が集まるところには諍いが起こる。才能あふれたミュージシャン同士が意見をぶつけ合うバンドであれば、むしろ平和であることのほうが珍しい。
ただし、ポリスやザ・ストーン・ローゼス、ブラーのように、解散から冷却期間を経てメンバー同士が絆を取り戻し、再結成するパターンもある。日本でもユニコーンや筋肉少女帯、X JAPANなどはそれに当たるだろう。その裏には金銭的な理由がないわけではないのだろうが、再結成のプロセスも人間臭さがにじみ出ていて面白い。
そんな中、アルバムでチャート1位を獲得し、解散コンサートの約束を東京ドーム公演という最高の形で果たしたBOØWYの解散劇は世界的に見てもずば抜けて美しい。真の理由はギタリストだった布袋寅泰が「墓まで持っていく」と言っているように誰にも明かされることはないだろう。それでも、美しさだけをファンに見せながら、花火のように絶頂期で消えていくのもまた、ロックバンドの生き様の一つだ。それを象徴するのが、故カート・コバーン(ニルヴァーナのフロントマン)が遺書にも引用したニール・ヤング「ヘイ・ヘイ・マイ・マイ」のフレーズである。
錆つくよりも燃えつきたい
たとえ音楽に興味がない人でも、191組の見事にバラバラな最終章に、心惹かれること間違いない一冊だ。
文=石塚就一