第7回『このマンガがすごい!』大賞受賞作! トランスジェンダー当事者が描く、女子バスケマンガ『ECHOES』【歩さんインタビュー前編】
公開日:2017/3/22
毎年、“その年の一番面白いマンガ”をランキング形式で発表しているガイドブック『このマンガがすごい!』。過去には『暗殺教室』『俺物語!!』『進撃の巨人』などが1位に選出され、その後のヒットぶりは言わずもがなだろう。そんな同書を発行する宝島社が新人作家発掘のために創設した『このマンガがすごい!』大賞。昨年開催された第7回目で最優秀賞に選ばれた作品が、いま注目を集めている。それが『ECHOES』(歩/宝島社)だ。
本作は“女子バスケ”を舞台に、トランスジェンダーの主人公・青(せい)やチームメイトたちの葛藤を描いた青春マンガ。作者である歩さんもトランスジェンダーの当事者であることから、話題作となっている。そこで今回は、歩さんにインタビューを敢行。作品に対する想いや今後の展望について話していただいた。
◆原案は中学生の頃に生まれた
前述の通り、本作はトランスジェンダーの青を主人公に据えた作品だ。しかしながら、それはテーマのひとつでしかない。本作では、青の悩みをはじめとしたチームメイトそれぞれが抱く葛藤にスポットライトが当てられており、そこが高く評価されている。そんな作品の構想は、実は歩さんが中学生の頃、およそ13年前からあったという。
歩さん(以下、敬称略)「当時、人とうまくコミュニケーションがとれないっていう悩みがあって、それを治すためにスポーツをしようと思っていたんです。そんな時にたまたま幼なじみが『SLAM DUNK』を貸してくれて、バスケに憧れるようになって。でも、ちょうど中学3年生の頃だったから部活には入れなくて、高校でバスケをはじめるまでの暇つぶしとして『ECHOES』に登場するキャラクターの原案なんかを考えるようになったんです」
暇つぶしでノートの片隅に生まれたキャラクターたち。彼らに息が吹き込まれたのは、二十歳の頃だった。
歩「高校に入ってからはバスケ漬けの毎日だったので、マンガのことなんて考える余裕はありませんでした。だけど、青たちはぼくの中では息づいていて。高校を卒業してから入った専門学校への通学時間や、就職してからの会社帰りにもずっと彼らのことを考えていました。そこでおおまかなストーリーや人物造形ができあがったんです」
◆『ECHOES』を描く人になりたかった
「青たちのことを描かなければ死ねない」。歩さんのその想いは相当なものだ。しかし、決してマンガ家になりたいと思っていたわけではないという。
歩「言葉は悪いかもしれないですけど、一度もマンガ家になりたいと思ったことはないんです。ぼくがなりたかったのは、『ECHOES』を描く人。肩書は本当になんでもよかったんです。とにかくこの作品を世に出したくて、『このマンガがすごい!』大賞に落選したら、web連載をしようと思っていたくらいですから」
マンガの描き方を勉強していたわけではない。当時参考にしていたのは、映画のコマ割り。だからだろう、本作では臨場感溢れるシーンが随所に登場する。セリフを排し、絵だけで魅せる試合のシーンは、思わず息を呑む迫力だ。しかも、応募作はまさかのフルカラー。当時のことを編集者はこう振り返る。
担当編集「まさかのフルカラー原稿で応募されてきたので、編集部内でも『すごいのがきた』と話題になっていました(笑)。そんな人、ほとんどいないですから。だけど、最初から相当レベルが高かったので、まったく揉めることもなく満場一致での受賞でした」
とにかく『ECHOES』をカタチにしたい。当時の歩さんを突き動かしたのは、純粋なこの想いだ。こうして本作は見事世に出ることとなった。
しかし、実体験である「トランスジェンダー」をテーマに盛り込むことについて、恐怖はなかったのだろうか。インタビュー後編では、歩さんが本作にこめた想いについて迫る。
【後編はこちら】https://develop.ddnavi.com/news/361928/a/
取材・文=五十嵐 大