服を買い続けていた絵本作家が「10年間服を買わない」チャレンジをして見つけた、本当に豊かな暮らしとは?

暮らし

公開日:2017/3/24

『服を10年買わないって決めてみました 買わずに楽しく絵本作家のシンプルライフ』(どいかや/白泉社)

 クローゼットには服が溢れてるのに、着る服がない。断捨離したはずなのに、いつのまにかまた増えている。そんな洋服の悩みに終止符を打ったのが、絵本作家のどいかやさん。『服を10年買わないって決めてみました 買わずに楽しく絵本作家のシンプルライフ』(白泉社)は、タイトルどおり服を買わずにいた10年間の生活から得た知恵を綴ったエッセイ絵本。

 人からもらったり、自分で買ったり。自分で着きれないほどの服を抱えていたというどいかやさん。どうしたもんかと思ったときに「来年から服を買わないぞ。とりあえず10年!」と思いつきで決めてしまったそう。勢いで本当に10年続いてしまうのだから、たいしたものだと感心したのが第一印象。靴下や下着、靴などは買ってもよいとか、仕事でどうしても必要なら買うとか、ガチガチに禁止しているわけじゃないのがよかったのかもしれないけれど、それでもなかなか達成できるものじゃないと思う。実際、どいさんもチャレンジ直後は、無意識に服をもってレジに並んでいたことがあったそう。

 だが、この“無意識”こそがたぶん、諸悪の根源。ほしいわけじゃない、必要なわけでもない、だけどなんとなく買ってしまう。

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 だから、買わないというよりも「買えない」と決めてしまったら、意外と買わずにすんだとどいさんは言う。あるものでどうにかしなくてはならないなら、リメイクしたり、組み合わせを工夫したりするしかない。意識的に服を着ることになれば、むしろおしゃれはもっと楽しい。一着一着を大事にするようになれば、同じ服をくりかえし着ていても気にならなくなる。「着る服がない」なんてことにもならないのだ。

 もともとセンスのある人だからリメイクとかもおしゃれにできちゃうんでしょう~。なんて思う人もいるかもしれない。だがどいさんはもともと、手芸が苦手。できる限りむずかしいアレンジはしたくない。アレンジの本など買ってはみたけど、挫折して読むのをやめてしまったというエピソードには親近感がわいた。どいさんがしたのは、街で見かけた「いいな」と思った服に、最低限の手間で近づけるにはどうしたらいいか、考えるくせをつけただけ。ボタンをつけかえたり、ブローチをつけたり、簡単に切って丈を変えてみたり。そうするうちに自然と、洋服以外の日常の品々にも「代用」や「工夫」をとりいれるようになっていったのだ。

 人間というのは面白いもので、決めた方向に進んでいると、似たような人が寄ってくる。編み物教室に誘われるようになったどいさんは、セーターをカーディガンに変えるすべを覚えたり、自分でストールをつくってみたり、できることを増やしていった。増やせばまた、工夫の幅が広がっていく。そうするうちに服の数は少なくとも、生活は豊かになっていく。本書ではどいさんが得た生活の知恵と、買わない暮らしで得た発見が、かわいらしいイラストとともにわかりやすく紹介されている。

 10年経って、ひさしぶりに洋服を買ってみたというどいさん。自分には作れない、既製品だからこそのデザインとクオリティ。それを身にまとう喜びは、やみくもに服を買っていた10年前とはまるで違うものだったはず。私もそんなふうに服が着たい、本当に服を楽しんでみたい。そんなふうに思わせてくれる1冊だ。

文=立花もも