業界関係者がどうしても語れないアマゾンvsヤマトの真実とは?【後編】

社会

更新日:2017/4/24

写真提供:PIXTA

 インターネット通販業界で起きているアマゾンとヤマトを巻き込んだ巨大な物流問題。

 物流力でいえばアマゾンは他のインターネット通販とは一線を画している。生産性を上げることについてアマゾンほど強く執着する企業は世界のどこにもない。書籍や日用品、音楽CDなど大量の商品がアマゾンの倉庫の中で分刻みの決められた速度でピックアップされ出荷される。顧客第一主義のための徹底した生産性管理がここでは行われている。

 そうして倉庫から出荷された荷物を顧客の指定した時間に届けるヤマト。これだけの付加価値をつけながら消費者から見れば宅配の送料は無料である。ではそのコストはどこに消えたのだろう?

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『ドッグファイト』(楡 周平/KADOKAWA)

 その秘密を小説『ドッグファイト』という形にすることで描き切ったのが作家の楡周平氏だ。経済関係者の誰もが触れられない闇の部分をエンタテインメント小説にすることで、経済問題をクリアに描写することに成功している。

 日本最大の物流企業コンゴウの経営企画部に勤める郡司はグローバルEC企業スイフトの荷物が急増していることに懸念を持っていた。営業が呑んでしまった大口荷主に対する極端な値引き価格が適用され、利益がまったく生まれていないのだ。「利益を生まない取引はビジネスではない」、そう上司に進言する郡司は入社18年目にしてはじめてスイフト担当の営業課長として営業現場に出ることになる。

 そこで郡司は初めてスイフトの要求をのまざるをえない営業現場の事情に直面することになる。

 スイフトからの厳しい要求に音を上げたライバルの物流大手モガミがスイフトから手を引く経営判断をした結果、スイフトの扱いはコンゴウがほぼ一手に引き受ける状態になっていた。そのことがコンゴウの荷物をさらに急増させ、末端の配達の現場は悲鳴をあげている。にもかかわらず営業の責任者となった郡司はスイフトにNOと言えない自分が置かれた状況に茫然とすることになる。

 作者の楡周平氏はここから見事な形で現実を先取りする。小説の中でスイフトが生鮮食品の当日配送に踏み切るのだ。それはコンゴウが顧客サービス向上のために東名阪での当日配送を発表したことを逆手にとったサービスだった。

 スイフトが生鮮食品を扱うようになると東名阪でのクールやチルドの荷物が急増する。それに対応するには保冷・冷凍設備を備えた車両を大量に増やさなければならなくなる。コンゴウの負担は大変なものだ。しかし当日配送サービスの開始を発表したにもかかわらず、荷物が急増したのでサービスに対応できなくなりましたと言うわけにもいかない。スイフトの計画に沿ってコンゴウはさらに儲からない設備投資を強いられる状況に追い込まれることになる。主人公がこの状況からどうビジネスを逆転させるのかが、この小説の読みどころだ。

 さて小説発売から数カ月後、アマゾンジャパンが東京エリアでアマゾンフレッシュという生鮮食品の配送サービスを始めるのではないかという観測記事が報道された。小説が現実を先取りした形になるかもしれない。

 ヤマトもアマゾンに対してこの小説のように痛快に、問題をビジネスチャンスへと置き換えることができれば面白いことになるだろう。物流業界だけでなくグローバル企業の要求に悩むすべてのビジネスパーソンにとって、新たな発見がある小説ではないだろうか。

【前編】業界関係者がどうしても語れない
アマゾンvsヤマトの真実とは?