アンパンマンの顔で何人が満腹になる?
公開日:2017/4/1
やなせたかし先生が、アンパンマンをはじめて描かれたのは1969年。75年に絵本『それいけ!アンパンマン』が刊行され、また88年にテレビアニメが始まると人気が爆発、その後アンパンマンのミュージアムが作られたり、アンパンマンの列車が走ったりするまでになった。生み出されたキャラクターは2千くらいいるらしい。
アンパンマンのすごいところは、その犠牲的精神だ。お腹のすいた人がいると、自分の顔をちぎって食べさせる! やなせたかし先生には「空腹の人を救ってこそ正義のヒーロー」という持論があって、それを実践しているのがアンパンマンなのだ。
それはすばらしいと思うのだが、筆者は気になって仕方がない。アンパンマンの顔は、アンパンとしてあまりにも大きい。あれほど大きければ、確かに多くの人が空腹を満たされるだろう。でも、あの大きな顔を抱えての生活は、アンパンマン自身もなかなか大変ではないだろうか。
普通のアンパンと比べると?
アニメの画面から、アンパンマンの顔の大きさを推定してみよう。
それにはアンパンマンの身長を知る必要があるが、周囲の人たちと比べると、おそらく1m60㎝ほどだと思われる。もし、アンパンマンの身長が1m40㎝だったら、ジャムおじさんが1m13㎝ということになり、6歳児の平均より低い。逆に、アンパンマンが1m80㎝もあったら、背の高いしょくぱんまんは1m97㎝もあることに!
よってここでは、アンパンマンの身長は1m60㎝だと考えることにしよう。
その身長と比べると、頭のアンパンの直径は76㎝ということになる。デカい。四輪駆動の車のタイヤと同じくらいの大きさだ。もしパン屋さんに直径76㎝のアンパンが並んでいたら、大きすぎて誰もアンパンとは思わないでしょうなあ。
この巨大アンパンは、いったい何人前なのか?コンビニで普通のアンパンを買ってきて測ると、直径は12㎝、重さは140gだった。アンパンマンの顔のアンパンは、直径がその6・5倍。もちろん縦も、横も、厚さも6・5倍だから、重さに至ってはなんと275倍だ!
これはすごい。140gの普通のアンパンの275倍とは38・5㎏で、小学6年生の男子の体重ほどもある。
普通のアンパン一個が一人分だとすれば、この巨大アンパンは当然275人分になる。アンパンマンが出動し、お腹のすいた人に自分の顔を食べさせると、275人もの人が救われるのだ。やはりすごいヒーローですな。
その顔は球体だった!
だが、待てよ。ここまでの計算は、アンパンマンの顔が普通のアンパンとまったく同じ形をしていることが前提である。それは正しいだろうか?
普通のアンパンを横から見ると、後ろがペッタンコで、前がドーム状に膨らんだ形をしている。ところがアンパンマンの頭部は、横から見ても上から見ても真ん丸い。アンパンマンのアンパンは、ボールのような「球形」をしているということだ。
これは計算をやり直さなければなるまい。コンビニのアンパンの厚さは4㎝だが、アンパンマンのアンパンは球形だから、厚さも76㎝あることになる。普通のアンパンに比べると、直径は6・5倍、厚みは19倍となり、6・5×6・5×19=800倍。
つまり、アンパンマンの頭は800人分の超巨大アンパンなのだ! ちょっとした規模の学校なら「皆さん、今日の給食はアンパンマンですよ〜」といって、全校生徒でアンパンマンの頭一個を仲よく食べる……などということも可能になる。
もちろん重量もすごい。140gの800倍も重いアンパンマンのアンパンは、なんと112㎏! 二刀流で知られるプロ野球の大谷翔平選手の体重が100㎏くらいだから、それより重い。
われらのアンパンマンは、こんなに重いモノを肩の上に載っけて空を飛んだり、ばいきんまんを殴り飛ばしたりしていたのだ。あのヒト、優しいだけでなく、大変な怪力ヒーローだったのだなあ。
ジャムおじさんの気高い精神
このように計算してみると、アンパンマンの偉大さがヒシヒシと伝わってくる。
だが、目を閉じて静かに考えれば、もう一人の偉人の姿が脳裏に浮かんでこないだろうか。そう、ジャムおじさんだ。
この優しいおじさんは、毎朝毎朝、アンパンマンの顔を新しく焼いてあげるのが日課だ。だが、そのパンの重量は112㎏。もう決して若いとはいえないジャムおじさんが、大量の生地をこね、アンを包んで、合計112㎏にも及ぶパンに成形して、パン焼き窯に入れるのは、大変なご苦労であろう。
ジャムおじさんには、体に気をつけて頑張っていただく他はない。冒頭から繰り返し記しているが、このヒーローは、そこらを勝手に飛びまわっては、お腹のすいた人に顔をちぎって食べさせるのをヨロコビとしているからだ。もし、何日も前のアンパンでそういうことをされたら、食中毒事件が発生し、ジャムおじさんのパン工場は、保健所に営業停止処分を食らってしまう。万が一にもそういうことのないように、毎朝、新しいアンパンを焼いていただきたいと思う。
気になるのは、経済的な負担が大きいことだ。筆者が買ってきたコンビニのアンパンは、消費税抜きで100円だった。すると、アンパンマンの生地とアンで普通のアンパンを作れば、その800倍=8万円の売り上げが見込まれる。ジャムおじさんは、毎日それをパーにしていることになる。
8万円×365日=年間2920万円!
村の平和のためにこれほどの個人資産を提供する人は、世界でも稀有だろう。
すごいぞ、バタコさん
そしてもう一人、その偉大さを忘れてはならない人がいる。バタコさんである。
このうら若き女性は、アンパンマンがばいきんまんに攻撃され、顔が汚れて力が出なくなると、新しいアンパンを持って現場に駆けつける。そして「アンパンマン、新しい顔よ~!」と叫び、アンパンを投げてあげるのだ。
新しいパンはクルクル回りながら飛んでいって、アンパンマンの古い顔を弾き飛ばし、入れ替わりに新しい顔となる。そして、元気百倍のアンパンマンに!
まことに盛り上がる場面だが、このバタコさんの行為は本当にすごい。重量112㎏のアンパンを、投げるのだから。
大谷翔平選手ほどの重さのパンを2mでも投げられたら、相当な怪力だろう。だが、バタコさんの力はそんなレベルではない。アニメのある回で測定したところ、バタコさんはアンパンマンの顔を、水平面から30度の角度で投げている。劇中では、投げてからアンパンマンに届くまで4秒を要していた。ここから計算すると、バタコさんはアンパンマンの顔を時速144㎞で投げたことになる。112㎏もの重量物を、プロ野球のピッチャーのストレートと同じスピードで投げている!
飛んだ距離は、なんと136m。バタコさんが野球場に行って、バッターボックスから「新しい顔よ〜!」と叫んで投げると、アンパンマンの頭はバックスクリーンを直撃するのだ……!
112㎏のアンパンを作るジャムおじさんに、それを136mも投げるバタコさん。そして、そんなモノを体に載っけて今日も戦うアンパンマン! この3人の恐るべき実力者がいる限り、町の平和は安泰でありましょう。
◆著者プロフィール
柳田理科雄
空想科学研究所主任研究員。代表作に「空想科学読本」シリーズ。また、各地での講演、ラジオ・TV番組への出演なども精力的に行っている。
◆プロフィール
柳田理科雄
1961年鹿児島県種子島生まれ。東京大学理科Ⅰ類中退。96年、経営していた学習塾の赤字を埋めるために『空想科学読本』を執筆したところ、60万部のベストセラーに。だが、塾は潰れてしまい、99年空想科学研究所を設立して研究と執筆に専念。2007年、希望する全国の高校図書館に向けて「空想科学 図書館通信」の毎週無料配信を開始する。13年スタートの『ジュニア空想科学読本』(角川つばさ文庫)が小中学校でブームになるなど、読者層はいまなお拡大し、著書の総累計部数は500万部。明治大学理工学部非常勤講師も務める。
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