情報に流されず現代を生きるために必要なこととは? 作家・池澤夏樹が教える“知”のすべて

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公開日:2017/4/3

『知の仕事術(インターナショナル新書)』(池澤夏樹/集英社インターナショナル)

 待ち時間や移動中、なんとなくスマートフォンの画面をスクロールして、ネット記事をサクサク流し読みする。知らない言葉や人名が出てきたら、すぐさまGoogleで検索。便利な時代になったものだと思う一方で、インターネットが普及していなかったころと比べて、自分は物知りになったかといえば決してそうではないことに気付く。情報はこんなにも簡単に得られているはずなのに。

『知の仕事術(インターナショナル新書)』(池澤夏樹/集英社インターナショナル)は、作家としてコンスタントに小説を発表しながら、書評や時評も執筆し、講演活動で忙しく全国を飛び回る著者が、現代を生きるうえで必要な「情報」「知識」「思想」をいかにして獲得し、日々更新していくかのノウハウを公開する。主にツイッター等のSNSで、頭も使わず議論もせず「いいね」のクリックと罵倒の応酬だけで世相が引っ張られていくことに危機感を覚えたことが執筆のきっかけだと言う。

 とはいっても、決して難解なことや説教臭いことが書かれているわけではない。著者自身の生活スタイルもさらけ出しながら、世の中にあふれる情報といかに楽しく付き合っていくかが書かれている。その柔軟さとラフさが本書の大きな魅力だ。

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 例えば、新聞の活用の項では、〈たったいまの世界がどのようになっているか。世界の見取り図を自らの頭の中に作る〉ために、日刊紙を読むことを提案している。インターネットの記事ももちろん便利で良いのだが、〈およそ無関係と思われる記事が雑然と並置されている紙の新聞の、あの紙面が要る〉のだそうだ。普段から目の前の情報に集中し過ぎて“木を見て森を見ず”になりがちな自分にとって、〈世界の見取り図〉にたとえた点はとてもイメージしやすかった。新聞に限らず、何事においてもまず全体図をイメージするということが池澤流仕事術の根底にある。

 本書を読んでいて感じるのは、「~すべき」と決めつけるのではなく、「いろいろ試してみて、自分に合ったやり方を見つければいいじゃない」という柔軟な姿勢。“本を手に入れて読む”ということ一つとっても、大型店、古書店、インターネット書店、図書館から、紙の本や電子書籍まで、それぞれの良さを作家ならではのエピソードを交えつつ紹介している。

“必ずしも本を最後まで読む必要はない”と言いきっているところも面白い。大人は子どもに対して「最後までちゃんと読みなさい」と言いがちだが、子どもがそのとき「つまらない」と思ったのなら、それも一つの批評なのだから、無理して最後まで読む必要はなく、成長してから再び読み直すのでもよいという。むしろ本を読むことを強制されて本嫌いになるほうがよほどもったいないと。名作と呼ばれる古典作品を無理して読む必要もないという。著者自身、未読の古典はたくさんあって、まだ『ドン・キホーテ』も『太平記』もまだ読んでいないことを告白。むしろ老いての楽しみに事欠かないからいいじゃないかとのこと。このラフさが良い。

 著者が説くのは、好奇心を持って世の中を柔軟に楽しむこと。それこそが、情報に流されず、自分をしっかり持って生きることにつながるのだ。

文=林亮子