TOEIC高得点でもペラペラにならないワケ。英語力アップのために重要なこととは?
更新日:2018/3/30
英検やTOEICが好成績な人は、「英語ができる」「英語ペラペラ」とみなされがちだ。だが実際はこれらの成績が良くても、英語で「読む、聞く、書く、話す」がすべて得意とは限らない。また海外で語学を学んだり、海外に住んだりしただけで、誰もが英語堪能になるわけではないのに、そう考える人も少なくない。
一体どうすれば英語が“できる”ように、そして“ペラペラ”になれるのか。今や、学生も社会人も、英語力アップは使命か義務のように叫ばれているが、そもそも必要なのか。英語が好きな人も、必要だから仕方なくやる人も、英語アレルギーの人もそれぞれに背景がある。テストの成績は関係ない。そうした色んな人にとって、上達するストラテジーが詰まっているのが『本物の英語力』『話すための英語力』(ともに鳥飼玖美子/講談社現代新書)だ。
著者は、同時通訳の第一人者で長年にわたり英語教育に携わっている鳥飼玖美子氏。広く深い知識と見識でわかりやすく指南する。巷にあふれる英語上達メソッド本に頼る前に、まず読んでみることを進めたい良書である。
■“留学”して何をするのか、仕事なら何のために英語を学ぶのか
「英語力アップ」の圧力に押されてか、手っ取り早く“留学”したがる人が増えている。だが、まず「留学」と「語学研修」は同じようで全く異なる。
留学は、少なくとも1年以上、現地の学生とともに学ぶことを意味する。一方、夏休みなどを利用して行く短期の語学研修は、お金さえ出せば誰でも体験できるが、現地の学生との接点がほとんどなく、日本人同士が集まってしまうなど問題点は多い。
そもそも留学とは、「英語を学ぶため」に行くのではなく、「英語で何かを学ぶため」に行くもの。よく聞かれる英語習得のための“留学”も、大学とはいっても付属のESL機関(第二言語としての英語コースを履修する)だったり、コミュニティ・カレッジ(専門学校と短大を合わせたようなスクール)だったり。大学正規のカリキュラムは受講できずに、こうした機関を渡り歩く日本人も多いという。
仕事で英語が必要という人も、やみくもに英語を学んでは効率が悪い。今や仕事も電話よりメールの時代。すると多種多様な企業のアンケート調査で共通していたのは、「Eメールに対応するため、英語を書く力」が答えにあったという。著者はさらに指摘する。
多くの場合、「TOEIC 600点以上は全員必須、海外志向者は700点以上」など一定の線引きをもうけているが、「これらの点数は実際の海外事業においてはほとんど意味をなさず使い物にならない」と断言します。
TOEICは「読む、聞く」だけを測るテストだからだ。英語を学ぶには、それぞれで何が必要かを見極めたい。
■思い込みを捨てること、自律して学ぶこと
一口に英語ができる、できないと言っても、「読めるけれど話せない」「会話は得意だけれど読めない、書けない」「何とか話せるけれど相手の言うことが聞き取れない」「書けるけれど話すのは苦手」など様々。
ともあれ「使いこなせる」語彙の習得は不可欠。そもそも話したり書いたりできるレベルで自ら使いこなせる語彙は、読んだり聞いたりして理解することができる語彙よりも少ない。
この語彙数は、仕事で英語を使うなら8000語、議論するレベルなら1万語が望ましいという。なお、実際のネイティブは2万語ぐらい。ちなみに、日本では中学高校の6年間に学ぶ語彙数はわずか3000語。大学卒業時でどれだけ上積みされているかに個人差はあれど、語彙数だけでも相当な開きがあるのが現実だ。
語彙を増やすには、暗記するのではなく多読がいい。単語はその文脈や状況によって、意味が様々に変わるため、そういったコンテクストの中で習得しなければ実用できないからだ。そして書くこと。読み書きで土台を作ることで、「内容のあることが話せる」ようになるという。
『話すための英語力』には、スムーズにコミュニケーションをするコツなどが、文化の違いを踏まえながら教示されている。あるのはフレーズ集などではなく大前提の考え方や、最先端の傾向から事例まで奥深い。例えば、「ネイティブは、こう言う」といった指南書は時代遅れになりつつあるといい、世の中のキャッチーな英語学習情報に惑わされない視点も補う。
著者は、外国語を学ぶことは、「未知の世界に遭遇すること」で、これまでの自分が知らなかった「異質性と格闘すること」と説く。わくわくドキドキするのも当然で、楽しいだけでなく苦労もするわけである。だからこそ一朝一夕には身に付かないのだと気づかされる。
「グローバルな人材を目指す」人も、ただ「外国人と交流したい」人も、同書を参考に自分は何が必要なのか、何が好きなのかを掘り下げれば、やるべきことはおのずと見えてくる。後は、自分に合ったストラテジーで、好きなように“自律”して学べばいい。それぞれが必要なレベルも興味も多種多様なのだから、好き好きに世界を広げていきたい。
文=松山ようこ