文筆家としての星野源、その魅力のすべて! 出会ってくれた人、見た景色、体験した出来事…「大切なもの」に丁寧に向き合ったエッセイ集

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/12


『いのちの車窓から』(星野源/KADOKAWA)

2016年、ドラマ『真田丸』『逃げるは恥だが役に立つ』などの爆発的なヒットにより、星野源は時の人となった。年末には2度目の紅白出場を果たすなど、まさに今、追い風に乗っている。俳優・音楽家としての活躍は言うまでもないが、忘れてはいけないのが彼の文筆家としての顔。これまでに5冊の著書を出版し、そのいずれもが高い評価を受けている。

そんな文筆家・星野源の最新刊『いのちの車窓から』(星野源/KADOKAWA)が出版された。雑誌『ダ・ヴィンチ』2014年12月号~2017年2月号に掲載された同名の連載エッセイに加筆・修正したものだ。眼鏡のレンズ越しに周囲を見ている自分から“車窓”を連想し、エッセイのコンセプトができていったという。

考えぬいて組み立てられた言葉の中に、星野源の哲学や真意が透けて見える。文章の上手さはもちろんだが、何より印象的なのは “書くこと”への誠実な姿勢だ。多忙な日々を送りながら、こんなにも丁寧な文章を紡ぎだすのだから本当に驚く。著者の“書くこと”への想いは、本書に収録された書下ろしエッセイ「文章」の中で語られているので、ぜひ確認してほしい。

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そして本書の大きな特徴は、著者のその視点。著者自身が人気者ということもあり、エッセイには笑福亭鶴瓶や大泉洋、新垣結衣などのそうそうたるメンバーが登場する。彼らも星野源の手にかかれば、鶴瓶師匠は親友の死を悼む面倒見のいいおじさんになり(「人間」)、ガッキーはさり気なく気遣いができる照れ屋の女の子になる(「新垣結衣という人」)。「人が好き」と公言する星野源のエッセイだけに、競艇場の帰りに偶然出会ったタクシー運転手(「多摩川サンセット」)や、ユニークな中華料理屋の店員(「武道館とおじさん」)とのエピソードも書かれている。著者が覗く「窓」から見える人や出来事には、何のフィルターもかかっていない。ただ魅力的な人、面白い出来事、それだけ。その飾らないフラットな視点が読者の共感を呼ぶのだろうし、星野源の著作の魅力なのだろう。

主張しないのに存在感があって、優しい余韻を残す。そして、折々に読み返したくなる。本書はまるで、星野源その人みたいなエッセイ集だ。読めばきっと、彼がぐっと身近な存在に感じられるだろう。明日いつもの帰り道で、行きつけの喫茶店で、自然体の星野源にふいに出会うような気がする。

文=佐藤結衣