子どもに先入観を植え付けるのは身近な大人。先入観にとらわれないためには?

社会

公開日:2017/4/14

『先入観はウソをつく』(武田邦彦/SBクリエイティブ)

 人には少なからず固定観念や思い込みがある。だから、先入観にとらわれて本質を見落とすことが少なくない。知識や経験をもとに物事を判断するのは大事なことだが、先入観が強すぎると誤った判断につながる。そこで、新学期や新年度に役立つ上手な先入観の外し方を学ぶために『先入観はウソをつく』(武田邦彦/SBクリエイティブ)を取り上げる。

「先入観を持つのは悪い」と思うのも一種の先入観

 先入観という言葉によい印象を持っている人は少ない。しかし、実は普段の行動のほとんどに先入観が働いている。だから、先入観にはよい面もあれば悪い面もあるというのが本当のところだ。例えば、朝起きてすぐ、部屋から外へ出るのに扉のノブをひねるという動作を無意識で行うが、その行動にも「ドアノブをひねったら扉が開く」という経験から学んだ先入観が影響している。もしも先入観が無かったら、毎日どうやって扉を開くか、そこから迷わなければならないのだから、先入観に助けられている部分は大きい。

 ところが、先入観にとらわれすぎると、ときどき大きなトラブルが起こる。引き戸にドアノブを付けておくと、ひねって外に出ようとする人が続出してなかなか扉を開けられないというのがそのいい例だ。このように先入観による失敗を経験すると、今度は「先入観を持つのは悪い」という先入観を持つことになるのだから皮肉なものだ。先入観は日常のあらゆる場面で働くものだから、先入観そのものを無くすのは難しい。だから、先入観をどう扱うかという点がポイントになる。

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マスコミや専門家の言葉を信じる心理

 マスコミや専門家の言うことはどんなことでも疑いもなく信じてしまう人がいる。そんな人は、本当に権威がある人だけでなく、権威がありそうな人も含めて無条件で信用してしまいがちだ。権威がある人でも、自分の都合のよい言葉を使って、平気でうそをつくことがあるのに、権威がありそうなだけの人の言葉も含めてしまうと、先入観の信憑性は相当怪しくなる。先入観の元は「大丈夫だと信じたい気持ち」だから、「マスコミや専門家が言うのだからきっとそうなんだ」と信じたい人が多いのもうなずける。しかし、マスコミや専門家に間違った情報を刷り込まれると、正しくないことが常識化してしまうのだから、少しは疑う気持ちも持たなければまずいだろう。

先入観を外すためのワンクッション

 先入観は必要なときもあるが、邪魔になることも少なくない。だから、先入観を外して物事を見直すクセを付けておいた方がいい。過去の経験から先入観が生まれるのだから、過去の経験以外も判断材料に加えるようにすれば、先入観だけにとらわれずに済むようになる。具体的な手段としては、頭の中に「受け入れ箱」や「比較箱」を置いて、気になる意見を一度箱の中に納めてから判断を下すという方法が考えられる。例えば、「自分の考えは正しい」という先入観で周りの人の話を聞くと、自分と違う考え方をする人の意見は皆間違っているように感じられてしまうが、一旦受け入れて、比較してから判断を下すようにすると、誤った判断をしにくくなる。

子どもに先入観を植え付けるのは身近な大人

 太陽は赤、信号は青など、小さな子どもが絵を描くときの色選びにも日本人独特の先入観が影響している。よくよく太陽の光のことを考えてみると、さまざまな色が混じっているのだから、何色で描いても本当は間違いではない。青信号だって、名前は青だか実物を見るとかなり緑色に近い。小さな子どもが経験上太陽は赤、信号は青と感じたわけではなく、親や幼稚園、保育園の先生など周りの大人のアドバイスから色が赤や青になったと考えるのが自然だ。小さな子どもには「大人は自分よりも物を知っている正しいことを教えてくれる存在」だから、先入観が植え付けられる。だから、子どもの先入観を外してあげられるのも、身近な大人しかないということになる。

 先入観は、うまく付き合えれば判断の効率アップにつながるが、先入観にとらわれすぎると厄介な問題もたくさん起こる。春は新しい出会いの多い季節。固定観念や決めつけをうまく外す方法を覚えて、正しい判断をできるようにしたい。

文=大石みずき