混んでいるのに「快速列車」に乗るのはなぜ? 人生は「選ばなかったこと」で決まる!
公開日:2017/4/12
私たちは毎日さまざまな選択をしながら生きている。何かを選ぶとき、人はどんな思考に基づいて行動しているのだろうか。
直感、好き嫌い、損得、消去法。なんとなく選んでいるという人もいるかもしれないが、「選ばなかったもの」に注目してみたこと はあるだろうか。
『あなたの人生は「選ばなかったこと」で決まる(日経ビジネス人文庫)』(竹内健蔵/日本経済新聞出版社)は、経済学の考え方のひとつ「機会費用」によって人間の行動の謎や社会の仕組みを教えてくれる一冊だ。
不選択の経済学「機会費用」とは ?
経済学のテキストの中では、「機会費用とは、複数の選択肢があるとき、ある選択を採用したことによって犠牲にされた選択肢を選んでいたならば得られたであろう価値のこと」と定義されている。そう言われてもなかなかピンとこないが、著者はデートを例に分かりやすく解説している。
ある女子大生が男性からデートに誘われた。しかし彼女はその日アルバイトがあって、行けば5000円の収入が得られ、待ち合わせの場所までは往復1000円の交通費がかかるとする。彼女には、バイトを休んでデートに行くか、誘いを断ってバイトに行くかという2つの選択肢があり、前者を選択したときの彼女の行動を考えてみよう。
このとき彼女が犠牲にしたものは、実際の財布から出ていった交通費の1000円だけではない。デートに行かなければ得られた5000円と合わせて、6000円が機会費用となる。
したがって彼女は彼とのデートに6000円以上の価値があると判断したことになるのだという。
なぜ各駅停車ではなく快速列車に乗るのか?
毎朝の通勤で快速列車に乗り換える人は多い。混み合っていて座ることもままならないのに、なぜわざわざ乗り換えるのか。それは目的地に早く着いて何かやりたいことがある、または何かできるかもしれないという期待があるからだと著者は推察し、「時間価値」の観点から説明している。
時間は値段のないものだが、機会費用の考えによると、その時間を費やすことによって得られるお金から求めることができる。鉄道を利用した際の1分の時間価値は36.2円。詳しい計算の仕方は本書にあたってもらうとして、各駅停車から快速列車に乗り換えることで節約できる時間は数十分程度だが、これによって機会費用を得ていることになるのだ。この「時間価値」の計算は新しい道路や新幹線の開業などの経済効果を明らかにしており、公共事業実施の判断基準のひとつにもなっているという。
この他にも本書の中では、恋愛のかけひきのような身近なテーマから命の値段や、金利の決まり方まで世の中のカラクリが機会費用の考え方によって解説されている。
著者は、経済学とはお金ではなく、人間の気持ちや幸せを扱う学問であると述べ、よりよい世の中を作るためには、人間の行動を解き明かさなければならないと結んでいる。
経済学というと小難しい金勘定のための学問という先入観を抱きがちだが、身近な例に置き換えてみると非常に分かりやすく興味深い。この行動の機会費用はいくらと厳密に考えながら暮らすのはナンセンスだが、よりよい選択をするための考え方のひとつとして知っておいて損はなさそうだ。
文=鋼 みね