『日常』のあらゐけいいち最新作!「CITY」の住民たちのぶっ飛んだ日常
公開日:2017/4/15
『日常』で人気を博した、あらゐけいいち先生の最新作『CITY』(講談社)。果たしてどんなマンガなのか。ワクワクしながら私は本書の表紙をめくった。
そこにはフルカラーで描かれた、手塚治虫の『火の鳥』を思わせるような鳥が大空を飛んでいた。なるほど、ファンタジーチックな作品なのかもしれない。物語の始まりをドキドキしながら読み進める。
その昔、鳥がおった。ある日、寝ながら飛んでいた鳥に悲劇がおこる。
地上からロング突起した岩に突き刺さってしまったのだ。
岩に突き刺さると石化してしまう病に冒されていた鳥は
突き刺さったまま時代の波をくぐる。
ある時代では信仰の対象に。
ある時代では物置に。
用途を変えながら地域に根付いていった。
そして現代――
その鳥と全く関係ない、あるCITYのお話。
鳥は『CITY』と全く関係なかった…。なぜフルカラーで描いたのか…。うーむ…たった3ページめくっただけだが…ぶっ飛んでいる。『日常』を思わせる鋭利なギャグが本作品でも光っている。
本書は、文無し大学生の南雲と「CITY」の住民たちが繰り広げる、ぶっ飛んだ日常を描いたコメディだ。本書の第1話をご紹介しよう。
ある朝、南雲は、大家の婆さんが玄関を叩く音で目覚める。家賃を滞納していたのだ。見た目は可愛い女の子なのに、少々クレイジーな一面を持つ南雲は、アパートの2階の窓から脱出し、助けを求めるべく1階に住む新倉の窓を叩いた。しかし新倉は南雲の要求を完全拒否。大家の「南雲家賃払え」という怒号を合図に2人の追いかけっこが始まる。
第1話だけあって、ここから怒涛のようにCITYの住民が登場する。
真面目でピュアで遠いツッコミと状況把握が得意な交番の本官。
自称ノーマルだが、この上ない変わり者の泉わこ。
洋食「マカベ」の店主と、その息子であり、いじられキャラの適性が強く現れている立涌(たてわく)。そして同じく娘で中学生のまつり。
そのマカベ一家に強い恨みがあり、マカベ一家を盗撮・盗聴している安達太良(あだたら)博士。
笑顔が素敵で、間の取り方が上手い東堂商店のイケメン店主。
南雲が走ればCITYのきれいで穏やかな街並みと、風変わりな住民たちのあらぬ方向で交錯するコメディが浮かび上がる。本書の帯に書かれている「このCITYの日常は、彼女が繋ぐ」というコピーの通り、南雲を通してCITYの人々の日常が楽しめる作品のようだ。
ただ、この大家の婆さんの強さと鬼のような表情は、コメディというよりホラーに近いかもしれない。
せっかくなので、本書の「第6話 泉わこ」も少しだけご紹介したい。先述の通り、泉わこは自分のことをノーマルと思っている、非常に変わった女の子だ。この手の人間ほどアブナイ人物はいないだろう。
見た目は清楚で可愛らしい大学生。ポイントカードをなくしただけで涙が出るほど落ち込む。そこまでならまだ分かる。しかし次の瞬間、自身の気持ちを落ち着かせるため、開明墨汁を取り出し、ニオイを嗅ぎ始めた。…いやいや、なぜ墨汁を持ち歩いている? 墨汁を嗅いで落ち着くのか!?
さらにおもむろにシイタケを取り出し、シイタケの傘の裏のヒダヒダを触り始めた。ヒダヒダを触るとリラックスできるのだそうだ。…いやいや! なぜ生のシイタケを持ち歩いている!? ヒダヒダを触ってリラックス??? この話は、この先いよいよ混迷を極めるので、勇気のある読者は本書で確認してほしい。
あらゐ先生の鋭利なギャグは、『CITY』の住人たちが刃物のように振り回していた。読者は腹筋が斬り裂かれぬよう気を付けるべし。
文=いのうえゆきひろ