日本人のDNA的に正しい生活習慣とは?
公開日:2017/4/21
健康や美容にまつわる悩みは、いつの時代も尽きない。誰だって病気にはなりたくないし、早死にもしたくない。できれば健康的でスリムな体形だって欲しい。
私たちの切実な願望を反映するかのように、人間はこれまで数多くの健康法や美容法を考え出してきた。
しかし残念なことに、それらの情報のほとんどは一過性のブームで終わってしまう。日々新しい情報が紹介され、あっという間に消えていく。さらにやっかいなことに、A医師の唱える「健康の新常識」がB医師の唱えるそれと真っ向から対立する、というような事態も頻繁に起こる。
めまぐるしく移り変わる情報に振り回され、「いったい何を信じたらいいのかわからない」と戸惑う人も多いのではないだろうか。
私たちにとって、本当にベストといえる健康法は何か――その答えを導き出すヒントになりそうな一冊を書店で見つけた。それが本書『欧米人とはこんなに違った 日本人の「体質」』(奥田昌子/講談社)である。
私たちの身体の設計図である遺伝子。その解析が進んだことで、医療の世界は劇的な進歩を遂げた。なりやすい病気や代謝のしくみ、筋肉の質など、それぞれの個人の持つ「体質」が明確になってきたのである。さらに、その「体質」を決める遺伝子は各自のご先祖様から代々引き続いてきたものゆえに、人種や民族によってまったく違った特徴があることも判明した。
四方を海に囲まれた日本は、伝統的に他民族との交流が盛んではなかった地域である。それゆえに、この地に生きる人々のDNAは孤立した島国という風土に特化し、独自の進化を遂げてきた。実際、日本人の全遺伝子に起こっていた遺伝子変異のうち、約半分は日本人固有の変化である可能性があるという。その結果、日本人特有の「体質」とでもいうべきものが見えてきたのである。
注意すべき病気やアルコールとの付き合い方、正しい食生活まで、私たち日本人の「体質」は、特に人種を異にする人々とは大きく違う。健康や美容にまつわる知識の中には、欧米から入ってきたものも多いが、それがそっくりあてはまるとは限らない。実践しても意味がないどころか、場合によっては害になる可能性すらある。たとえば、一般的に「健康に良い」と思われている赤ワイン。「飲酒によるダメージを受けやすい」という日本人の特性を考えると、飲み過ぎは考えものだ。
体質が変われば、当然最適な健康法も変わる。著者は、多くの実験データや調査結果を駆使しながら、日本人のDNAに本当に合った生活習慣や病気の予防法を追究していく。
一部の遺伝病を除き、病気になるかどうかを決めているのは、持って生まれた遺伝的素因よりも生活習慣などの環境による影響の方が大きいといわれている。もしある病気になりやすい遺伝子を持っていたとしても、DNA的に正しい生活習慣が発病を防いでくれるケースもある。
それでは日本人のDNA的に正しい生活習慣とは、いったいどんなものだろうか。
まず、節酒、禁煙、適度な運動、適正体重の維持といった、いわゆる「生活習慣病の予防によい」と医者がすすめることは、すべての日本人におすすめである。肥満や飲酒、喫煙がもたらす健康リスクが、他の人種と比較して大きいからだ。
そして、なんといっても「和食」である。本書を読んで一番驚かされたのが、伝統的な「和食」の持つ効能だった。和食にもまったく弱点がないわけではないが、魚や大豆製品といった和の食材が日本人の健康に及ぼしてきた恩恵は計りしれない。むしろ、我々の身体が「和食」に合わせて進化してきたというべきか。日系米国人の糖尿病発症率は、日本で暮らす日本人にくらべて1.5倍から2倍。たとえ同じ遺伝的素因を持っていても、食生活によって健康リスクは大きく変わる。
遺伝子によって決められた「体質」は変えられない。しかし「体質」に合った生活を送ることで、病気になるリスクは限りなく下げることができる。大切なのは、遺伝的な素因を含む自分の体質を正確に見極めること。そして、それに合わせて賢く情報を取捨選択する勇気なのだ。
文=遠野莉子